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発露
4.
しおりを挟む「式神は言いました。気が乱れている気配がすると。邸からではない。では何処か。差し示した方角にあるのは大内裏でした。“陰陽の気”や“逆転の者”、それに惹かれて現れるあやかしの存在、それら全てを教わり、急いで姉様に文を送った時には既に手遅れでした。姉様は床に伏せったきり、意識もあるかないか怪しい状態になっていました。宮中に初めて忍び込んだのはその時です。其処でわたくしも初めて目の当たりにしました。乱れた“気”に…姉様の“陰の気”に呼び寄せられたあやかしの姿を。そこからはあなたが御存知の通り」
敦宣が語る言葉を聞くほどに、範子はわからなくなっていった。そこまで姉のことを思っているのならば、今の彼の考えには矛盾がある。
「それならどうして群がるあやかしを退けるだけで肝心の姉君を助けようとしないんだ。君の姉君は助けを求めているかもしれないのに」
「このままで良いと思っているからですよ」
返った応えに、範子は声を呑んだ。
「な、んだって…」
「だってそうじゃありませんか。今、内裏で起こる気の乱れはいわば姉様の想いの成れの果て。祓ってしまえば、姉様の想いは誰に届くことなく消え去ってしまう」
仄かに笑みさえ浮かべ「…それに」と敦宣が続ける。
「姉様にお辛い思いをさせていた周りの人間がどうなろうと知ったことではありません。良い気味ですよ。もっと苦しめばいい」
「…本当にそう思っているのか」
「そうですよ。わたくしはそういう人間です。今のままで構わない。あなたがわたくしを助けてもただの徒労というわけです。だから、ねえ、手を引いてもらえませんか? あなたの存在は邪魔なんですよ」
「出来ないよ」
「御自身の立場を理解されていないようですね。何故あなたの身体の自由を奪ったとお思いか。わたくしは決してお願いをしているのではありませんよ。…この意味、わかりますよね」
ぐっと低くなった声が告げる。
「手を引いてください。もう関わらないで」
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