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内裏に現るる怪奇の真実
10.
しおりを挟む「――――範子さま」
名を呼ぶ声は背後から聞こえた。
振り返った先、ひとりの姫が佇んでいた。その手には笛がある。範子に迫っていたあやかしを退けた破魔の音色を生み出したものだ。
それが出来るのはただ唯一だ。
「敦、宣…」
「そちらへ行ってはいけませんよ。先程のように危ないめに遭ってしまいますから」
敦宣は平坦に言いつつ、しずしずと蹲った範子に近付いてきた。
「お迎えにあがりました。さあ部屋へ参りましょう」
きっと女人を好むという妖しき影をまた呼び寄せてしまったのだろう。
大内裏で初めてあやかしに襲われた時、二人と一匹で御所を駆けた日が酷く遠く思えた。
見下げてくる敦宣が手を差し出してくる前に、範子は固い声で問い掛けた。
「敦宜…、…これは、何…?」
「何、とは?」
「惚けるな。どうして、あやかしものが右大臣邸にいる」
「さあ…、わたくしにもわかりかねます」
差し出されようとしていた手が空のまま引かれる。敦宣は気のない返答をして踵を返した。
ようやく立ち上がることが出来た範子が彼の後を追う。
追い付いた先で、敦宣は女房と話していた。
「君さまを見付けたから御部屋へ戻ります。今宵はもう下がって」
範子と敦宣の常とは異なる雰囲気に戸惑いを浮かべながらも、女房は深々と腰を折った。
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