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内裏に現るる怪奇の真実
9.
しおりを挟む意を決し踏み出した範子の呼吸に濃厚な梅の香が紛れた。
その途端、
くるしい くるしい…
若い女の苦悶の声が聴こえてくる。
それでも範子は歩を進める。
進める度に声はわんわんと頭を揺さぶるように響く。くわんと一等頭が揺れ、視界がぶれる。
苦しい―――!
「う…っ」
たまらず膝をついてしまう。咄嗟に耳を塞ぐが徒労に終わる。苦しむ声が止まない。頭が割れるように痛む。
ギイ、不意に金切声が聞こえ、範子はのろのろと顔をあげた。
滲む視界に、もはや見慣れたしかしこの場に表れることのないはずの猿の姿を模したあやかしがいた。
あやかしの赤い目は既に範子を捉えている。獲物として補足されてしまった。
にじりにじりとあやかしが近付いてくる。
けれど範子は立ち上がることが出来ない。
万事休すかと思われた刹那、
神獣が高く啼く。
ギャア、濁った悲鳴をあげ、範子の目前にまで迫っていたあやかしが飛び退いた。
月明りが届かぬ柱の陰に逃げ、あやかしは影の闇に溶けて消えていった。
やがて静寂が重く帰ってきた。
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