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内裏に現るる怪奇の真実
4.
しおりを挟む「――――あら…貴方は侍従の君殿」
梅壺に仕える女房は、局近くの簀子縁にぼんやりと立ち尽くすひとりの公達に気付き、おやと首を傾げた。
「斯様な場所で如何なされた?」
声をかける。すると、年若い貴公子ははっと我に返ったように辺りを見渡した。まるで今まさに夢から覚めたような振る舞いだ。
「侍従の君殿?」
流石に訝しみ、再度呼ばう。
「あ…」やっとのこと女房の存在に気付いた侍従の君は、思案げな色を瞳に一瞬過らせ、ひとつ息をついた。
次に女房に向き直った時には、今をときめく侍従の位に相応しい優美な笑みを浮かべていた。
「高貴な梅花の香に誘われてふらりと来てしまいました。大変失礼を」
女房は知らず緊張していた肩から力を抜いた。
「きっと花盛りとなればもっと素晴らしいのでしょうね。その時を心待ちにしております。…どうぞ、貴女も御自愛なさいませ」
まあ、と感嘆の声が漏れた。
侍従の君は梨壷の更衣ときょうだいだ。その立場上、表立っての発言には配慮しなければならない。彼が言葉の裏に隠した真意を、しかし梅壺の宮の女房は過たず読み取った。梅壺の女御を気遣う言葉を。
「有り難い御言葉。御心配召されるな、花の盛りはすぐに訪れまする」
気丈に答えた女房に腰を折り、美しい公達は踵を返した。
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