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内裏に現るる怪奇の真実
3.
しおりを挟む果たして、辿り着いた先は梅壷の女御のおわす局であった。
帝の妻が暮らす華やかな宮中の象徴がひとつ。しかしながら、沢山の女房がいたはずの其処は人気がなく、昼間なのに寂しく感じさせた。
くるしい くるしい だれか
他には聞こえざる声は間違いなくこの建物の内より聞こえてきた。
そろりと範子が局に歩を進める。
刹那、
「―――――!」
いきなり目の前の景色が昼から夜へ切り替わった。
そうとしか表現出来なかった。
瞬きの度に、 騙し絵のように違う景色が映り込む。麗らかな白昼。静かな星月夜。
どちらが現実かわからない。
くらりと立ち眩みが襲い、目を瞑る。
次に目を開いた時、場所は一変していた。
辺りはとっぷりと闇の帳が落ちている。どうやら何処かの渡廊に佇んでいるようだ。視線を転じれば、庭園には銀の紗のような月明りが差している。
ここは、大内裏?
しかし僅かな既視感がそれを直ぐ様否定した。
――――否、違う。
…此処は、右大臣の邸だ。
何故、彼の邸に? と疑問に思う前に動く影を捉えた。
眼前に延びる渡廊。月明りが仄かに照らす其処を歩く姿があった。その艶やかな髪と、背格好、静かな歩み方。後ろ姿だけで誰なんて直ぐにわかった。
敦宣だ。
範子といえば手足も動かず声も出ない。否、自身の身体があるのかさえわからない。
ただ意識だけを其所に存在させ、渡廊を行く敦宣の姿を見守る。
彼はゆっくりと歩みを進めている。やがて、堅く閉ざされた妻戸に辿り着く。
しばらくじっと佇立していた敦宣の腕がおもむろにあがる。袖から表れた白い手が妻戸に触れる。
―――――…姉様…。
彼が密やかに呟く。
離れた所にいるはずの彼の声はしかし範子の耳にしかと届いた。
―――――必ず…わたくしが
静かに、けれど決然と囁いた言葉が。
範子の鼻先に梅の濃厚な香が薫った。
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