婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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敦宜の翳り

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※ ※ ※



敦宣と範子のあやかし退治の日々は続いた。

範子に誘われて現れたあやかしを、敦宣が笛で調伏を行う。これは、胡蝶の的確な助言と、範子の抜群の運動神経、敦宣の流麗な笛の音色によって、深刻な危機に陥ることなく進めることができた。

ただ、範子にはひとつ気になることがあった。

日を重ねる毎、敦宣が物憂げな表情を浮かべるようになったと思う。思う、と確信が持てないのは、彼が範子に隠そうとしているからだ。

現に今も、

「敦宣」

「平気です」

神妙に名前を呼ぶ胡蝶に、敦宣は頭を振って応えている。まるで拒絶しているかのようだ。
彼は範子の視線に気付くと、ぱっと険しかった表情を和らげた。こうやって彼は心情をひた隠す。

「範子さまもお疲れ様でした。そろそろ帰りましょうか」

うん、と頷いた。

何か悩みでもあるの? と聞いてしまいたいのをぐっと抑える。踏み込まないでほしいと態度で表している敦宣を困らせるだろう。

敦宣が引いた見えない線を見詰め、範子は考えあぐねていた。
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