婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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大祓の儀にて大役を任ぜらるる事

5.

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下向いて視界に入っている絢爛な衣が僅かに動く。
少し視線をあげる。衣を握る白い手が映った。
敦宣の声がした。

「…それを、お辛く思いますか?」

「――――いや」

対する応えはすぐに出てきた。

「思わない。悔しくはなるけど、私は男になりたいわけじゃあないから。私は私だ。それに、アケビは私が一番に射落としたんだ。こうやって、力で敵わないなら他を伸ばせばいい」

にこ、と敦宣に笑いかける。

「さぁて、敦宣、私の笛をみてくれる? ごめんね、笛の名手っていったらもう君しか思い浮かばなくてさ」

確かに敦宣の笛の腕に惚れ、師事を申し込んだけれど、それがこんなに本格的になるとは、と思いつつ、立ち上がる。

蔀戸に近付き、空を見上げる。
今宵は月が明るい。薄衣のような雲がかかり、七色に光っている。

敦宣もこの風景を眺めていたのだろうか。

「範子さまはすごいです…。わたくしなんて…」

小さな呟きが聞こえ、振り返った。

「敦宣?」

室内は薄暗く、俯いた彼の表情は見えない。

やがて、敦宣が応えた。

「いえ。合奏しましょうか。大祓まで後僅かですものね」
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