婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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あやかし退治の夜

3.

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「何躊躇してんのよ。アンタたち、将来を誓い合った婚約者なんでしょ?」

「う」

「夫婦になるんだったらこんなの朝飯前じゃないと~」

「そ、それは…て、あ! 胡蝶、ずるい! 敦宣の側にいるんだからその話がただの噂だって知ってるだろ!」

「なら結婚しないの?」

ぎゃいぎゃい騒いでいた範子がぴたりと押し黙った。

「こーんなに可愛い『胡蝶の君』を袖にするのね、侍従の君は」

「…うぐぐ…」

奇妙な呻きをあげて押し黙る。

確かに内裏で右大臣に他の縁談を持ち掛けられた時には、敦宣との噂を持ち出して噂を本当にするしかないと匂わせたのは範子だ。が、それが現実味をもってくると、途端に狼狽えてしまった。

敦宣を窺う。その頬は今や夜闇にもわかる程に真っ赤だ。首まで赤い。伏し目がちになった面もあわさって破壊力が半端ではない。

「そーれ、くーち吸い、くーち吸いー」

「この蝶覚えてろよ後で絶対標本にしてやるからなー!」

囃し立ててくる蝶に吠え、

「敦宣!」

範子が振り向き様に勢いよく敦宣を呼ぶ。その勢いにか呼ばれた敦宣は肩を跳ねさせ「ひ…」と小さく悲鳴をあげてたじろいだ。

「あの…、ご無理をされずに…」

「無理なんてしてないよ!」

「お、落ち着いてくださいな」

「範子、今顔めちゃくちゃに怖いわよ」

「うるさーい、誰のせいだと思ってんだ!」

「うふふ~」

 収拾がつかなくなってきた頃合で、敦宣が咳払いをした。

「胡蝶…、範子様をからかって遊んでいる場合じゃないでしょう」

「だぁって、範子の反応が面白くて」

「はぁ!?」

実にあっさりと胡蝶が白状した。

「今までと同じ抱擁でも大丈夫よ。ただし、後ろとか横からじゃなくて、真正面からがっちり抱き合って密着すればね」

敦宣が気遣わしげに付け加える。

「その…それでも身体を密着することになりますから、範子さまさえよろしければで大丈夫ですよ」

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