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あやかし退治の夜
1.
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狩衣姿の範子が夜の闇を鎌鼬のように素早く掛ける。
彼女の後方からギィと金切声がした。赤い目が光る。
「敦宣、そっちに行くよ!」
言うや、真っ直ぐ走っていた軌道を変える。
「はい!」
範子と異形の間に、編み込んだ黒髪を鞭のようにしならせ敦宣が立ちはだかった。
彼が相手をしている間にも、範子を狙って他のあやかしが迫る。
「ほら、お前の獲物はこっちだよ!」
しかし、範子も負けてはいない。飛び掛かってきたあやかしを危なげ無く避けると、敦宣から遠ざかるよう誘導する。
時には茂みに隠れたり、木に登り撹乱したりと、もう一匹いた異形は獲物の姿を追えず翻弄されている。
「範子さま、此方はかたがつきました!」
「よっしゃ今行く!」
当初は、範子の身を案じてか不安げにしていた敦宣だったが、彼女の軽い身のこなしを目の当たりにして考えを改めたらしい。今では頼ってくれるようになった。
しかしながら、この夜、4匹めのあやかし退治となり、敦宣に疲れが見え出した。
それは異形の反応に顕著に表れた。
忙しない動きが止まり石像のようになったものの、あやかしの影は留まっている。
「燃料切れね」
「………」
胡蝶の指摘に、敦宣が大きく息をついた。疲労の片鱗が伺える。
「敦宣、大丈夫?」
「はい」
範子の声に頷いてはいるものの、蝶の式神の言うことに因れば、陰の気質の敦宣が、同じ属性のあやかしを祓うのは困難らしい。気は生命力と同じだと言われれば、敦宣の感じている疲労は推し量れない。
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