婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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あやかし退治の夜

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※ ※ ※



狩衣姿の範子が夜の闇を鎌鼬のように素早く掛ける。
彼女の後方からギィと金切声がした。赤い目が光る。

「敦宣、そっちに行くよ!」

言うや、真っ直ぐ走っていた軌道を変える。

「はい!」

範子と異形の間に、編み込んだ黒髪を鞭のようにしならせ敦宣が立ちはだかった。

彼が相手をしている間にも、範子を狙って他のあやかしが迫る。

「ほら、お前の獲物はこっちだよ!」

しかし、範子も負けてはいない。飛び掛かってきたあやかしを危なげ無く避けると、敦宣から遠ざかるよう誘導する。
時には茂みに隠れたり、木に登り撹乱したりと、もう一匹いた異形は獲物の姿を追えず翻弄されている。

「範子さま、此方はかたがつきました!」

「よっしゃ今行く!」

当初は、範子の身を案じてか不安げにしていた敦宣だったが、彼女の軽い身のこなしを目の当たりにして考えを改めたらしい。今では頼ってくれるようになった。

しかしながら、この夜、4匹めのあやかし退治となり、敦宣に疲れが見え出した。

それは異形の反応に顕著に表れた。

忙しない動きが止まり石像のようになったものの、あやかしの影は留まっている。

「燃料切れね」

「………」

胡蝶の指摘に、敦宣が大きく息をついた。疲労の片鱗が伺える。

「敦宣、大丈夫?」

「はい」

範子の声に頷いてはいるものの、蝶の式神の言うことに因れば、陰の気質の敦宣が、同じ属性のあやかしを祓うのは困難らしい。気は生命力と同じだと言われれば、敦宣の感じている疲労は推し量れない。

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