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逆転の者
4.
しおりを挟む「えっ」
「ついでに言うと、その後のあわや暴漢騒ぎも一部始終しっかり見てたわよ~」
「あれも見てたんだ!?」
背後で消え入りそうになりながら、敦宣が「その節は大変なご迷惑を」と謝った。
あの宴の夜といえば、範子と敦宣が初めて出会った日でもあるのだが、もうひとつ、自らの性別を偽る者同士だと露見した日でもある。
しかし、すんなり事が運んだわけではない。
一目で範子の性別を見破った敦宣は『わたくしも、男ですから』と明かした。そして、呆然としていた範子の前で、いきなり衿ぐりを開いた。それは思いきり。
百聞は一見にしかず。証拠を見せようとしたらしいのだが、涼しげな顔をしていた敦宣はしかしあの時焦っていたと後に語る。
目の前で脱ぎ出した敦宣に、止めようと慌てて範子が駆け寄る。丁度その時、騒ぎを聞き付けた敦宣の女房がやって来た。
修羅場の出来上がりであった。
「既成事実を作ろうとした狼藉者の烙印を押されなくてよかったわねぇ~」
「…ほんとにね」
無駄にきゃぴきゃぴと言う胡蝶に、疲れたように範子が同意した。
申し訳なさそうに小さくなっている敦宣に気にするなと手をあげる。事実、誤解を解いて範子の危機を救ったのは敦宣だ。
「…それは兎も角、女でありながら男として生きている私もその『逆転の者』なんだね?」
「おそらくね。だからあのあやかしが視えたってわけ。あいつらは『陰』の気の乱れに集まってきているから、その反対の性質で追っ払えばいいんだけど、敦宣の性質は同じ『陰』だから、祓うのがなかなかと難儀なのよ。だからアンタの『陽』の気をこの子に渡すために抱き合えって言ったの。『逆転の者』ではあやかしを祓いづらい、けれど性別と性質の『陰』と『陽』が一致していないからこそ、その綻びも、惹かれ集う影も捉えられる。そうね…ある意味共鳴みたいなもんかしら」
範子は知らず呟いていた。
「君は…なにものなんだ?」
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