婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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逆転の者

2.

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内裏から敦宣の実家の右大臣邸まで、範子は敦宣に肩を貸してもらいながら辿り着いた。
宮廷内で噂の元にもなった通り、よく訪ねている邸なわけだが、まさかこんな形で訪れる日が来ようとは思いもしなかった。

ふらふらの状態の範子をみかね、初めは敦宣に背負うと言われたが辞退した。御所から右大臣邸まで距離がある。その距離を敦宣に背負わせるわけにはいかない。

しかし正直なところ、歩くのもやっとだった。身体に力が入らないのだ。
範子の状態を察したのだろう敦宣は、彼女をほとんど抱きかかえるようにして歩いた。

結構な距離を歩いたが、邸に辿り着いた時、敦宣はそれほど息を乱した様子は見られなかった。
姫として暮らしているのであまり体力がないのではと思っていたが、そんなことはないようだ。





座っていることも辛かったため、敦宣の対屋に辿り着いた当初、範子は横になっていた。
見慣れない天井の木目を徒然に眺める。ふと視界が翳る。敦宣の端正な顔が覗き込んできていた。先程まで三つ編みにしていた髪がほどかれ、いつもはまっすぐな黒髪が緩く波打っている。内裏に居たのが現実のことだと実感させられる。

「お加減はいかがですか」

「うん、大分ましになったよ」

「よかった」

「肩借りてごめんね、敦宣。ありがとう」

「いいえ。御礼を言うのは此方の方です。範子さまのお陰で窮地を脱することが出来ました」

窮地。
言われて思い浮かぶのは、あの得体の知れないあやかしだ。2体に囲まれてしまったとき、蝶は敦宣と抱き合えと言った。
蝶曰く、それによって範子は立つこともままならない状態になったそうだが、その訳はというのも、

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