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姫君と公達、闇夜で暗躍す
6.
しおりを挟む「敦宜」
「範子さま…」
真剣な範子の声音に、敦宣が緊張も露わに口許を引き結ぶ。しかし逃げようとはしない。
彼は観念して範子の次の言葉を待っていた。
そんな彼に範子が飛び付かんばかりに歩み寄った。
「ね、私に笛を教えて!」
「えっ?」
「敦宜、笛すっごく上手いんだ!? やっぱりそうだと思ってたんだよ!」
「ええ…?」
「まー能天気な公達だこと」
目を白黒させる敦宣の頭上で、胡蝶が呆れ返って言った。
「私も笛は吹くけど、敦宣の方が何倍もうまいよ! 感動しちゃった」
「いえ…そんな…わたくしなんて」
「ほんと、ほんと」
「―――ねえ」
「実際に聞いたことないけど、竜の啼き声みたいだった」
「―――ちょっと、アンタ」
「アンタじゃなくて範子だ!」
ばっと範子が頭上を見上げた。
夜空を優雅に揺蕩っていた蝶がすいと範子の鼻先へと飛んでくる。
「なら範子」
「もう、なに?」
「アンタあんまり動かない方が良いわよ」
「だからアンタじゃ………あ、れ…?」
いきなりがくん、と体勢が崩れた。たまらずしゃがみこむ。
「範子さまっ!」
敦宣が慌てて範子の前に膝をつき、肩を支えてくれる。
「ちからが…はいらない…」
「ほれ見なさい。さっき敦宣に陽の気を渡したからよ」
「よう…? それにさっき言ってた『逆転の者』って何なの?」
胡蝶が敦宣の肩にとまった。
「敦宣」
促すように胡蝶が呼び掛ける。
しばらく胡蝶を眺めていた敦宣が、意を決した様子で範子に向き直った。
「すべて説明します。兎に角、わたくしの邸に参りましょう」
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