婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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姫君と公達、闇夜で暗躍す

5.

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「わかったわかった。ひとまずアンタたち抱き合いなさい」

「ええ!」

これには敦宣と範子の驚愕の声が揃った。だが胡蝶も冗談で口にした訳ではないようだった。

「敦宣は身体を密着させた状態で笛を吹きなさい。この子もおそらく『逆転の者』よ。詳しい説明は後! さあ早く!」

「ええいもう、わかったよ!」

範子は敦宣の背後から抱き付いた。

勢いが過ぎたのか「うっ…」と敦宣がか細く呻く。だが直ぐに体勢を立て直し、彼は笛を口許へあてた。

再び流麗な音色が響き渡った。

間近で聴いた範子がはっと瞠目する。
音色が先程と明らかに違うのだ。

これは…。

と、吹き初めて幾ばくもしない内に、あやかしたちの様子が変わった。
あやかしたちの臨戦態勢だった姿勢が緩んだのが気配でわかる。ひょろりと長い腕がだらりと垂れ下がった。

すぅ…と気配が薄れていく。

やがて完全に妖しき影は姿を消した。

風の吹き抜ける音が聞こえるほどの静寂が訪れる。

「竜が増えた…」

なので範子の呆然とした声はよく聞こえた。

「ぶはっ」

頭上で盛大に胡蝶が噴き出した。
むっとした範子がひらひら舞う蝶を睨み付ける。

「――――で? アンタはいつまでうちの敦宣に抱き付いてるわけ?」

言われてはたと気付く。敦宣に思いきり抱き付いたままだと。

「ああっ…と! ごめんね!」

「い、いえ…」

範子が、音がしそうな勢いで慌てて離れると、敦宣は恥ずかしそうに目を伏せて俯いた。なんて女子力なんだ。流石は可憐な姫の名を欲しいままにしている…いやいや、今はそうじゃなくて。

範子は咳払いをした。

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