婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

文字の大きさ
上 下
11 / 88
姫君と公達、闇夜で暗躍す

4.

しおりを挟む

「敦宣!」

鋭い胡蝶の声が飛んだ。

ひやりと背筋を撫でる感触。頭が認識するより先に、範子は敦宣に体当たりしていた。勢いがあまり、ふたりして地面に倒れ込む。

範子が素早く見上げた先で、ふたりが今の今までいた空間に飛び掛かる影があった。
それもひとつだけではない。

「二匹…」

先程と同族だろうあやかしが、今度は二匹立ち塞がった。
距離も近く、ぴりぴりとした殺気も感じる。背中を見せた瞬間に飛び掛かられることは明らかだ。

「どうやら奴ら、えらくアンタをお気に召したようね。こんなに釣れるなんて滅多にないのよ」

胡蝶が緊張を滲ませながらおどける。範子にすればたまったものではなかった。

「私が呼び寄せてしまったのか…!」

視線で牽制しつつ立ち上り、二人は距離を開こうとするが、今にも飛び掛かられそうだ。

「範子さま、わたくしから離れないでください」

「敦宣、一匹を相手にすれば、もう一匹が手薄になるわ」

「わかっています」

「いい? 牽制しつつよ。アンタの笛ならいつも通り片がつく。大丈夫、ちっとばかし数が増えただけよ」

「はい」

「私が囮になるよ」

「はい………え?」

神妙に相槌を打っていた敦宣がすっとんきょうな声をあげた。
胡蝶がとんでも発言をしたひとの頭上をひらりと舞う。
すなわち、範子の上に。

「ちょっとアンタ何言ってんの」

「囮になる。だって私を狙っているんでしょ? 私が引き付けている間に頼むよ」

我に返ったらしい敦宣が慌てて言い募る。

「い…いけません! もし失敗したら…! 奴が女人を狙うのは里につれさらって子を産ませるためだとも言われているのですよ」

「うわあ…。うん、でも大丈夫。私、身体を動かすことには自信があるから」

「範子さま…! 胡蝶!」

敦宣が胡蝶に助けを求める。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...