婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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姫君と公達、闇夜で暗躍す

3.

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距離が開いたところで、白砂を踏み鳴らし、敦宣が背後を振り返る。範子を見て短く指示を飛ばす。

「わたくしの後ろに!」

「う、うん!」

範子が素早く敦宣の背後に回り込む。
後を追ってきていたあやかしに向け、敦宣が笛を突き付けた。

「お前の探している奏者はここにいます」

彼の手に持つ笛に気付いたか、あやかしがぴたりと止まった。範子にはやはり薄ぼんやりとしか見えないが、何やら値踏みするような視線を向けているのはわかった。

刹那とも数刻とも感じられた静寂の後、敦宣がやおら笛を構え、そして――――…


――――竜が啼いている。


範子は思った。
大陸に伝わるという伝説の神獣。それが、天に昇るために啼いている。
自身があやかしに襲われていることさえ忘れ、思わず天を仰いでその尊い姿を探す。でも、真っ暗な空には星々が瞬くのみだ。

否。

これは、竜の声ではない。敦宣の吹く笛の音色だ。わかりきったことを理解するのに随分と時間がかかった。

範子が次にあやかしに視線を戻した時には、

「消えた…」

その妖しき影は姿を消していた。

「満足したら消えるのですよ」

いつの間にか演奏を止めた敦宣が肩越しに言った。

「敦宣、きみ…」

範子が言い差した時だった。

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