婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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姫君と公達、闇夜で暗躍す

2.

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「――――…?」

ふと聴こえてきた音に目を見開いた。最初は空耳かと思った。しかし直ぐに否定する。確かに聴こえるのだ。

べん、べんと弦を爪弾くこの音は…。

「琵琶…?」

疑問は確信に変わった。
琵琶の音色がする。
音色の出処を探り、視線を巡らす。

建物の簀子縁、月明りが届かぬのっぺりとした暗がりが何故か目についた。

じっと目を凝らす。
闇に慣れた目が、そこにぼうっと浮かび上がった赤い目に気付く。
傍らの敦宣が鋭く息を呑んだ。

「見てはいけません!」

掲げられた袖が視界を塞ぐが、一足遅かった。赤い目と目が合う。糸で引かれるように視線が外せない。存在を認識される。赤い目が三日月に歪む。

「…な、なにあれ…」

「げ、バレた。逃げるわよ!」

胡蝶が言うか言わないかの内に、範子は敦宣に強く手を引かれていた。

「範子さま、此方へ」

彼に引かれるまま、御所を駆ける。

「アレも視えているのですね?」

「う、うん、はっきりとは見えなかったけど、ぼんやり猿みたいな影が琵琶を持って…ねえ! あれは何?」

混乱から余計に弾む呼吸の中、必死に問う。薄ぼんやりとしか見えなかったが、猿のような影が見えた。あれは普通の動物ではなかった。

「…あれはあやかしです。奴は奏者を探しているのです」

「普段は自分より腕の良い奏者を探しているだけなんだけどぉ」

敦宣の肩に留まった胡蝶が場違いな程のんびりと言う。

「アンタさっきアイツとばっちり目が合ったでしょ?」

「合ったね!」

「やっぱりぃ? アイツ特に女人が好きでさあ」

「つまり?」

「今、アンタは狙い打ち」

「早く言えー!」

もったいぶるなー! と叫び、範子はひた走った。

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