婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの

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今をときめく貴公子の秘密

5.

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侍従の君は、名を範子といった。男の成りをしているが、彼女は歴とした女であった。

「楽の腕良し、漢詩も良し。なぜお前は男に生まれてこなかったのでしょう」

いつものように、きっちりと人払いを済ませ、梨壷の宮は艶やかに紅の塗られたくちびるを開いた。

「仕方ないよ。それより、こうして好きなように生きさせてくれる父上や家族の皆に感謝しているんだ。出仕中は姉上にも随分助けられて感謝しています」

あっけらかんと返すのは侍従の君――――範子だ。


範子は、権大納言家の末の子どもとして生まれた。長女である梨壷以外、全員男の子どもであったため、待望の姫として生まれた彼女は、長女同様、帝の后となることを望まれていた。

けれど、彼女はそれに応えられなかった。

成長するにつれ、範子は世の姫のように内に籠るよりも、外に出て兄や男童と遊び回ることの方が楽しく思えるようになった。男童を喧嘩で負かす、まるで若君のような振る舞いを、乳母や見兼ねた父に諌められようとも改めることは出来なかった。
やがて、根負けしたのは父だった。範子の好きに生きたらよいと言ってくれたのだ。

時が経ち、ますます若君のように振る舞う範子の噂が宮中にまで及び、ついに帝の耳にも入ってしまえば、今更実は女だと明かすことは出来ない。
範子は男として成人し、出仕することと相成った。



「目に入れても痛くないほど可愛い妹ですからね。わたしに出来る限りの援助は惜しみなく致しましょう」

視界の隅で、梨壷に同意してうんうんと頷く人影を捉え、範子がくすりと微笑む。範子を呼び寄せた女房だ。
ちなみに、彼女は初めから同じ部屋に気配なく端座している。
彼女は梨壷の宮の乳母姉妹であり、範子の事情を知る数少ない人物である。梨壷からの信頼も篤く、彼女に代わって宮中で範子の手助けをしてくれる。先程の右大臣との会話を中断させたように。

こうした周りの協力や助力を得て、範子は出仕することが出来ている。感謝してもしきれない。

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