上 下
12 / 16
第一章

2-1.

しおりを挟む

アレックスは自室へと続く廊下を歩いていた。

身体は機械的に前へと脚を進めるが、頭はメイド長から先ほど聞いた話が大半を占めていた。彼女とあのあとどうやって別れたのか曖昧だ。無礼な振る舞いはしていないと思いたい。

眠気はまるでない。早めの就寝をして気持ちを切り換えるつもりだったが、この感じでは到底叶わないだろう。
歩みを止める。ついには大きなため息が漏れた。

鈴を転がすような愛らしい笑い声が聴こえたのはその時だ。

は、と顔をあげる。
長い廊下の曲がり角に、小さな影が佇んでいる。

「女の子…?」

アレックスの髪より明るい茶金の長い髪と、裾がふわりと広がった黒のドレス。遠目にわかったのはそれくらいだったが、彼女がアレックスに微笑みかけているのは何故かわかった。
あんな小さな子がこんな遅い時間にどうしたのだろう。と思いかけ、ふと思い至る。

いや…それ以前に。


----この屋敷に、小さな女の子など居たか?


アレックスが気付いたと同時に、小さな影がくすくすと笑い声を残し、亜麻色の髪を翻して角に走り去る。

「あ…」

追い掛けていたのはほとんど無意識だった。
大人の男が走れば長い廊下もすぐに終わりに辿り着き、女の子が去った角を曲がる。

しかし、小さな影は何処にもなかった。大人と違い、子どもの足ではこの短時間にそう遠くへは行けないはずなのに。何処かの部屋に入ったのだろうか。

暫し呆然としていると、ふと視界に動くものを捉え目を向ける。

窓の外だ。
昼間は色とりどりの花が咲く賑かな其処も、夜ともなれば闇一色に静まっている。
その中で、チカリと月明かりを反射するものがあった。
窓際に歩み寄り、目を凝らす。
そして、正体に気付いた。

白金の髪だ。
認識すれば、人影が闇に隠れるように外を歩いているのがわかった。

「ヘーゼル様…?」

あの見事な金の髪の持ち主を、アレックスはヘーゼルしか知らない。
こんな夜更けに侯爵家の嫡子を外に出して何かあったら一大事だ。

「シャレにならんぞ…!」

慌てて踵を返す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...