限界社畜さんは怪異となかよし

くもいの館 おまけ

２．

「ーーー以上が報告となります」

青年の声が止む。

あの女の屋敷であった出来事を報告し終えると、途端に部屋の中はしん、と静かになった。
先程まで日の光が残っていたのに、外はもうとっぷりと夜の闇に浸っている。林に棲む烏たちも巣に帰ったのか鳴き声も聞こえない。

大きな執務机に納まった青年の主人たる子どもが報告を聞き終えてひとつ首肯する。それきり、机上の万年筆を手に取り何かを書付け始めた。

「その、社長…」

置いてけぼりにされてしまったような不安を感じ青年から少し焦ったような声が出た。
大きな瞳が青年を見上げ、小さな手が一点を指さした。

「そこでくたばってるの、片付けてくれるか？」

「あ…、はい」

畏まりました。と、ほぼ反射で口にしながら、指し示された方を見る。

執務机に突っ伏している姿があった。彼女だ。先程から珍しく口数が少ないと思っていたが、眠ってしまったようだ。それも致し方ない。今日は本当に色んなことがあったから。
しかし、大口を開けて実に気持ちよさそうに寝ている。いびきこそないが、なんとも豪快な寝姿だ。寝辛くないのか、と疑問に思い、最近立ったまま寝られるようになりました、と豪語していたなと思い出して込み上げる笑いを噛み殺した。彼女を見ていたら、何だか気が抜けてしまった。起こさないよう抱き抱え「一旦失礼致します」と一礼して執務室を後にする。

彼女専用の仮眠室に向かいながら、今の今まで胸にあった不安が少し軽くなっていることに気付いて「敵わないですね…」と独り言ちた。