限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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からすが鳴いたらかえりましょう

2.

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そういえば、と思い出す。

出しな、常に持ち歩くよう言われている社員証が机の上に置きっぱなしなのに気付いて取りに行こうとすると、見送りに立ったひつじさんに「もうなくても平気です」と言われたな。
私としては一度履いたパンプスを脱ぐ手間が省けて良かったが、

「あれ、どういう意味だったんだろな」

呟きが聞こえてか、からすも私に気が付いたらしい。黒々とした瞳がこちらを向き目が合った。例えば町中の早朝で同じ場面に出くわせば肩がびくつくだろうが、場所が此処であれば様相が違う。
案の定、目が合ったからすは威嚇する様子はまったくなかった。それどころか畳んだ翼を広げることはせず、脚で地面を蹴りちょんちょんと身軽に近付いてきた。

此処の林を棲みかにしているからすたちは皆一様にひと懐っこいが、こいつは輪をかけてだ。どうやら私の顔を完全に覚えたらしい。

襲ってこないことはわかっているので、そのまま待っていると、だんだん嘴に何かを咥えていることに気付いた。
どんぐり、かな。

「なに、くれんの?」

言葉が通じるわけでもないのに何故か動物に話し掛けてしまう。あるあるだと思う。
当たり前だが、烏は答えることはない。首を傾げて見上げてくる。いらないの、と聞かれている気がした。

「きみのでしょ? いいの?」

また首を傾げ、今度は咥えたどんぐりを地面に置く。黒目勝ちのつぶらな瞳がじっと私を見詰めてきた。
つやつやした木の実を拾い、

「ありがとね」

私はからすに笑いかけた。
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