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くもいの館 後編
9.
しおりを挟む夕焼けの林道。
頭上ではカアカアと烏たちが鳴いている。まるで帰りを喜んでいるかのように。
林を抜けると、途端に視界が広がる。
目の前には豪邸が聳えている。
エントランスポーチに向かう円形に広がった階段。そこに小さな影ぽつんと座っているのに気付いたのは、ひつじさんと同時だったと思う。
いつからそこにいたのか、ぷらぷらと振られているか細い両脚は、誰かの帰りをずっと待って待ちぼうけをしているかのようだった。
「社長…」と呟いた私の横でひつじさんが走り出す。
「ただいま戻りました」
うん、と上司が頷く。その表情からは何を思っているのかわからない。
「坊っちゃん…いえ、社長、申し訳ありませんでした」
上司は深く腰を折るひつじさんには何も言わず、ただじっとその大きな瞳で見上げて、
「おかえり」
ただ一言そう言った。
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