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くもいの館 後編
7.
しおりを挟むそれでも私は歩を進めた。
たどり着いた先で、くもいさんがにっこりと微笑む。すいと近付いた彼女が伸ばしたたおやかな両手が頬を包む。
「ばかねぇ、逃げておけばよかったのに。それにしても、ほんとう、きれいな目ねえ…。うっとりしちゃうわ。わたくしのお願いよ。さあ、あなたのなかみを見せてちょうだい」
恍惚とした目が私を覗き込む。
その瞳の奥を見た瞬間、ぽつりと呟きが漏れた。
「----きれいなあかり」
「なあに?」
「おとうさまから戴いた灯籠。だれにも奪られないように隠しておかなくちゃ」
「あなた…」
咄嗟にか身体を引こうとしたくもいさんのその細い手首を遠慮なく掴んだ。
「あんたの大事なこの灯籠、壊されても文句はないな!?」
叫んだ瞬間、光が弾けた。
一瞬視界が白み、何も見えなくなる。光の奔流は暖かく、恐怖心はなかった。
徐々に視界が戻ってくる。
ぎゅ、と一度強く目を閉じて開く。
屋敷の灯りがついていた。
柔らかな灯りのもと、自身の腕にぶら下がった細かい鎖の先にある灯籠を一心に見詰める屋敷の女主人の姿があった。
「そう、そうだったわ…。ああ…ここにあったのね。どうして忘れていたのかしら。こんなに大事なものなのに」
呆然とした声が言う。
灯りの灯る屋敷を見回し、次いで尻餅をついた私を見た。
「ありがとう。おとうさまから戴いた大切なものなのよ」
幼い少女のような無垢な顔で彼女が笑った。
それにしても腰が抜けた。これは立ち上がれない。
尻餅をついたまま、ずりずりと後退していると、ふ、と影が差した。
「…忘れていました」
声とともに手が差し伸べられる。
「あなたがとても往生際が悪いひとだということを」
見上げれば、呆れたような感心したような、形容し難い表情を浮かべたひつじさんが私を見下ろしていた。
「それ、褒め言葉ですよね?」
私は差し出された手をバシッと叩き落とす勢いで取った。
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