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くもいの館 後編
2.
しおりを挟む「わたしを助けるなんてとんでもない! 時間の無駄です」
「……………は」
呆然とした声にもならない息が漏れた。今度こそ声を失って立ち尽くす。
「言いましたでしょう? 社長がわたしを同行させたのは、あなたを無事にかえすためだと。会社に届いた依頼書が彼女からのものだとわかった時から、厄介な依頼だとはわたしも承知していました。最悪、かえれないかもしれないとは。だからこそ、社長はわたしをあなたに付けたのですよ。いわば、わたしはあなたを守る盾のようなものです。盾は壊れるまで使うものであり、その心配など不要です」
ひつじさんは、日々、鬼上司からの指令にひいこら悲鳴をあげている私にとって、職場の良心のようなひとで、デスクで頭を抱えていれば差し入れのお菓子をくれる優しくて穏やかで、いつも微笑みを絶やさないひとだ。
…だったはずだ。
なのに、今、私の目の前にいるひとは誰だ?
危険があるのを知りながら、いざ危険が迫れば身を挺することを厭わないといとも簡単に言ってのけているこのひとは。
「…どうして、そこまでするんですか?」
「それを社長が望んでいるからですよ」
応えは当たり前のことを言うように淀みなかった。事実、ひつじさんにとって、当たり前のことなのだろう。
この時点で応えを半ば予想出来ていたのに私は重ねて問うていた。
「ひつじさんは、社長が言うなら何でもするんですか…?」
「はい」
即答だった。予想の通りだった。
そして何の疑問も迷いなく、ひつじさんは言った。
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