36 / 78
くもいの館 中編
5.
しおりを挟む「そういや、もうひとりの兄ちゃんはどうした?」
蜘蛛の問いに一瞬ぴたりと押し黙って、正直に答えた。
「…はぐれてしまって…、探してるんです」
…ひつじさんは無事だろうか。
あえて見ないようにしていた不安が頭をもたげてくる。
だって、身動きすら満足に出来ないくらいに目が見えていなかったのに。あんなの、私が見捨てたようなものだ。もし、もしも、あのひとの身に何かあったら…、いやそもそも、私があの時ひつじさんの手を離さなければ…----
「そんな顔しなさんな」
慰めるような声に、は、と顔をあげる。知らない内に近付いてきていた蜘蛛が続けた。今度はもう驚かなかった。
「なぁに、すぐ見付かるさ」
「ありがとう」
蜘蛛は機嫌良く大きな尻を振りながら、一本の脚をあげてみせた。
「ほら、嬢ちゃん。おれが作った菓子でも食べて元気出しな」
その脚が持つのは、いやぶっ刺しているのは、可愛らしいピンク色のマカロン。
「……………なんて?」
それまでのちょっとしんみりした空気をぶち壊し、たっぷり数秒は沈黙して私は聞き返した。
待て今、すごいこと言わなかったか?
「なんだ、腹は減ってねぇか?」
「え…え、いや、それ、おっちゃんが作ったの?」
取り繕うのも頭からすっぽ抜けて思わず素で聞くと、蜘蛛は得意気に胸ならぬ腹を張った。
「おうとも。ここでの菓子作りは全部おれの仕事だからな」
「まじか…」
まさかあの豪勢なスイーツの数々をこの蜘蛛のおっさんが作ったというのか。あの夢カワなお菓子をこのもじゃもじゃ毛むくじゃらの脚が作ったなんて信じられない。体毛の異物混入もなかったし純粋にすごいな。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる