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くもいの館 前編
9.
しおりを挟む「うふふ、敵わないと思って? お忘れかしら? 此処はもうわたくしの手の内なのよ」
バツンッとブレーカーが落ちたような音がしたと思った時には、辺りは闇に包まれていた。
まだ午前中の太陽の出ている日中だったはずなのに。
慣れない目では辺りが見えない。
きょろきょろと辺りを見えないなりに見渡していると、手首にするりと何かが纏わりつく感覚がした。く、と引かれる。
「な、なに…」
「さがってください」
すぐ隣でひつじさんの声がして手首を掴まれる。段々と闇に慣れた目が、彼が腕を横に払うのを捉える。途端に私の手首に絡まっていた何かが取れるのがわかった。
「バカねぇ」
くもいさんの声がしたと思ったら、苦しげに呻いたひつじさんが何かに引っ張られたように床に崩れ落ちる。
「ひつじさん…!?」
すかさずひつじさんのもとに飛び付くようにしゃがみ込む。暗くてよく見えないが、彼の身体に糸のようなものが巻き付いている。それがギリギリと身体を締め上げている。苦しげに喘鳴を繰り返しながら、ひつじさんが顔をあげた。
「あなたは周りが見えますか? ならいますぐ外へ出てください」
「はあ!? 何言ってんですか!」
目が、合わない。
そこで気付く。ひつじさんは見えていないのだ。
「ふふ、見えない? ねえ見えないでしょう? お目目が見えないのは辛いわねぇ」
愉快で仕方ないといった笑い声が響く。
その声は頭にわんわんと響き、何処からするのかわからない。もしかしたらもうすぐ側に彼女が迫っているかもしれない。
「掴まっててください。引っ張りますよ!」
浮かぶ妄想を振り切り、私はひつじさんの肩に腕を回した。半ば引き摺るように前に進む。私が力をかけて引く度に、彼に巻き付いた糸がぶちぶちと千切れる音がする。それでも糸はまだまだ巻き付いているようだった。
ごく間近でひつじさんが言った。
「社長がなぜ、わたしをあなたに付けられたと思いますか?」
知るかそんなの。黙って運ばれてろ。怒鳴り返したかったが、自分よりも上背のある男の身体を運ぶことに必死で出てきたのは唸り声だけだった。
這う這うの体でようやく食堂の外に出る扉にたどり着く。
ドアノブを捻った瞬間
「あなたを無事に帰すためですよ」
どん、と突き飛ばされる。
「ひつじさん!」
「走って、決して振り向かないで」
ばたん、と目の前で扉が閉じられる。
開かない扉を拳で叩いて私は叫んだ。
「離れないでって言ったじゃん!」
つづく
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