限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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乗り間違い

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ぽてぽてと近付いてきたと思えば、私をしげしげと下から眺め始める。「あっりゃーん…?」と珍妙な鳴き声をあげた親方ねこが、次の瞬間、舎弟ねこの頭を思い切りはたいた。

「オイてめえこのばかやろうが! よっく見てみろ。このひとは違えぞ」

「痛ぇですよぉ…」と泣き言をぼやいていた舎弟ねこ「ん?」と小首を捻り、じっと私の顔を見てくる。

「…あ…ああ! 間違えちまいやした。いやあ、この身体になってからひとの見分けが難しくて、はは」

「笑い事じゃねえぞ! オレが気付かんかったらどうなってたか」

「すんません…」

「ったく、場所が近えからって許されるようなことじゃねえんだぞ、オレらの仕事ってのはよお」

怒られてしゅんとしてしまった舎弟ねこにため息をつき、親分ねこが私の足下に再びやって来た。神妙な様子なので、私も襟を正す。

「ど、どうしたの?」

「いや嬢ちゃん、悪かった。こっちの手違いみてえだ。確かにあんたみたいな執念深そうでしぶとそうな女が此処に来るわきゃねえか」

「おいなんか突然ディスられてるぞ」

殊勝な様子で来たと思えばこれだよ!

「さぁて、そうとなったらお帰りの準備だ」

「はいよ!」

実に手際よく舎弟ねこが座席に飛び乗り、窓を全開にする。その間に「さあさ、こっちだこっち」と親分あれよあれよと手を引かれ、私は導かれるまま座席に着席する。すると「違う違う」と首を横に振られてしまった。

「え、違うの?」

「こっちだってこっち」

「こっちって…」

窓しかないけど、と真っ暗な窓に手をかける。
すると、

「よし、せーの!」

「はっ…!?」

親分ねこと舎弟ねこの威勢の良い掛け声とともに、ぐいっと背中を押される。
待ておい、さっき親分ねこのとこに連れて来られた時も思ったけど、こんな小さな身体に反して力がめちゃくちゃ強い。車内にあったはずの上半身が窓の外に飛び出しそうになり、ひゅっと腹の底が冷える。真っ暗な外は何も見えない。もし落ちたらどうなるか。更にはびゅうびゅう風は吹き付けてくるわ、ぐいぐい背中を押されるわ、たまらず窓の桟にしがみついて風にも負けない大声で叫ぶ。

「ちょ、ちょっとまって、ねえまじで待って! おおおち、落ちるから!!」

「そら落とそうとしてるからな!」

「ふざけんなああ!」

「はっはっは」と豪快に笑った親分ねこが続けた。

「それだけ元気がありゃあ、あんたは大丈夫だ!」

あ、と思った時には、電車の外に放り出されていた。私の喉から飛び出した悲鳴が尾を引き、物凄い電車の走行音と風の音が鼓膜を叩く。それに紛れて「間違えてごめんな!」「達者でな、嬢ちゃん!」という舎弟ねこと親分ねこの声が聞こえた。
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