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07 ダブルデート 後編(ランドside)
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アクセサリー店を出た後も、俺達は様々な店で買い物を楽しんだ。
最初はレオンのために一肌脱ぐか、という思いで参加したこのイベントだったが、いつしか俺は純粋に楽しんでいた。俺は王子だから普段ほとんど市中での買い物を楽しむ機会などなく、純粋に「こんな店もあるのか」という好奇心もあった。
だが、それ以上に・・・
「殿下、このお洋服はどうでしょう?」
「うーん、私はこちらの方が好みですわね」
「殿下にはこの本をオススメいたしますわ!」
コロコロと表情を変えるアテナ嬢を見るのが、楽しかった。
彼女は、殿下である俺を対等の相手として見てくれているようだった。不敬、というほどでもないが、俺が彼女に選んだものであっても、自分の好みに合わないものは「NO」と言うし、逆に気に入ったものは心から喜んでくれているように感じた。
これまで俺に寄ってきた令嬢達は、俺の機嫌を損ねないように接しているように感じていたが、どうやら彼女はそういった態度は取らないらしい。本当に変わった女だ。
まぁ、退屈しないし、悪くない、かもな。
昼のカフェでの昼食も美味かった。
俺は街で食事を取る機会などほとんどない訳だが、その数少ない食事もすべて高級な店でしか食べたことがなかった。この店は、貴族よりも平民の若者が多く利用する店なのだそうだ。
最初は、普段食べた事もない料理の数々に戸惑ったが、口にしてみると存外美味だった。料理人の腕が良いのももちろんあるだろうが、アテナ嬢に勧められた料理を食べたのが良かったのかもしれない。
彼女はこういった情報をどうやって取り入れているのだろうか?食事会の時には、変わった女だな、という程度だった彼女への興味は、この日、どんどん強くなっていった。
もっと彼女を知りたい、と俺は思っていたのだ。
そして、彼女への興味の色が決定的に変わったのは・・・午後の演劇の鑑賞の時だ。
俺は満員の劇場の客席に座っていた。俺は演劇はあまり見た事がない。見るとして、少人数の貴族や王族達だけで劇場を貸し切ってみた事しかなかった。
今座っている席は、一般の席よりも少し良い席ではあったようだが、こんなに人の多いところで見るのは初めてだ。それも新鮮だった。
劇の内容は、俺が読んでいた流行りの恋愛ものだ。アテナ嬢が俺に退屈させないようにこの演劇を選んでくれたのだろう。今までの彼女のチョイスに俺は楽しまされてきたのだから、きっとこの演劇も面白いのだろう。そう思うとなんだか見る前から楽しい気持ちになってくる。
ほら、レオンもローラ嬢もニコニコしているぞ。劇が楽しみなのだろうな。だが、なぜ二人ともこちらを見ているのだ?
ん?アテナ嬢の顔が少し赤いな。彼女も自分の好きな内容の劇に期待しているのだろうか。意外に可愛い面もあるのだな。
・・・
事件が起きた。
いや、不届き者が出たとか、火事が起きたとか、そういう類ではない。というか、別に他の者にとっては事件ではない。
おそらく、俺だけの事件だ。
俺の視線の先は、劇の方へ向いていない。今、非常に良いシーンなのだが、それどころではないのだ。
俺の目は、隣の『恋の女神』に向いていた。
彼女の目から涙が出ていたのだ。演劇に夢中で、劇の登場人物に感情移入してるのだろう。その端正な顔を濡らす一筋の道は、劇場の淡い光に照らされていた。
女神・・・と形容されるに相応しいほど、目に映る彼女の姿は、俺を惹きつけてやまなかった。
彼女が涙を流すほどに、劇は今、良いシーンなのだ。だから俺もそれを見るべきなのだろうが・・・。俺の目が、それを許さなかったのだ。もっとこの美しいものを見ていたい、と訴えていたのだ。
だが、どんなものでも終わりは訪れる。
「ど、どうなさいましたか?殿下?」
彼女の顔が不意に俺の方へ向いたのだ。
俺は突然のことに動揺してしまった。まさか「アテナ嬢の泣き顔に見惚れていた」などと、言えるはずもなく・・・。
「な、なんでもない!」
俺は顔を反射的に前に向けて否定した。ちょっと不自然だったな・・・。そっとしておいてほしいところだ。
「殿下、もしかしたら体調がすぐれないのではありませんか?少し顔が赤いようですが・・・」
アテナ嬢、なぜここで気配りができない!?
「い、いや、問題ない!俺は大丈夫だから演劇に集中しろ!」
存外に声を張り上げてしまったではないか。彼女もそれで大人しく引き下がってくれたが・・・気まずい・・・。しかも周りの観客の視線も痛い・・・。
ぐぬぬ、こんな恥辱を味わうハメになるとは、アテナ嬢め・・・。
俺は急に暑く感じるようになったこの場で、残りの劇を大人しく鑑賞することにしたが・・・その内容は全く頭に入ってこなかった。
そして、劇が終わった後は解散となった。とりあえず、ハプニングはあったが、レオンとローラ嬢の2人から、アテナ嬢を遠ざけるという、当初の目的は十分達成できただろう!
・・・俺はなんだかモヤモヤした気分になってしまったが、これはもしかしたら、アテナ嬢が言うように体調を崩しかけているのかもしれない。ああ、きっとそうに違いない!
最初はレオンのために一肌脱ぐか、という思いで参加したこのイベントだったが、いつしか俺は純粋に楽しんでいた。俺は王子だから普段ほとんど市中での買い物を楽しむ機会などなく、純粋に「こんな店もあるのか」という好奇心もあった。
だが、それ以上に・・・
「殿下、このお洋服はどうでしょう?」
「うーん、私はこちらの方が好みですわね」
「殿下にはこの本をオススメいたしますわ!」
コロコロと表情を変えるアテナ嬢を見るのが、楽しかった。
彼女は、殿下である俺を対等の相手として見てくれているようだった。不敬、というほどでもないが、俺が彼女に選んだものであっても、自分の好みに合わないものは「NO」と言うし、逆に気に入ったものは心から喜んでくれているように感じた。
これまで俺に寄ってきた令嬢達は、俺の機嫌を損ねないように接しているように感じていたが、どうやら彼女はそういった態度は取らないらしい。本当に変わった女だ。
まぁ、退屈しないし、悪くない、かもな。
昼のカフェでの昼食も美味かった。
俺は街で食事を取る機会などほとんどない訳だが、その数少ない食事もすべて高級な店でしか食べたことがなかった。この店は、貴族よりも平民の若者が多く利用する店なのだそうだ。
最初は、普段食べた事もない料理の数々に戸惑ったが、口にしてみると存外美味だった。料理人の腕が良いのももちろんあるだろうが、アテナ嬢に勧められた料理を食べたのが良かったのかもしれない。
彼女はこういった情報をどうやって取り入れているのだろうか?食事会の時には、変わった女だな、という程度だった彼女への興味は、この日、どんどん強くなっていった。
もっと彼女を知りたい、と俺は思っていたのだ。
そして、彼女への興味の色が決定的に変わったのは・・・午後の演劇の鑑賞の時だ。
俺は満員の劇場の客席に座っていた。俺は演劇はあまり見た事がない。見るとして、少人数の貴族や王族達だけで劇場を貸し切ってみた事しかなかった。
今座っている席は、一般の席よりも少し良い席ではあったようだが、こんなに人の多いところで見るのは初めてだ。それも新鮮だった。
劇の内容は、俺が読んでいた流行りの恋愛ものだ。アテナ嬢が俺に退屈させないようにこの演劇を選んでくれたのだろう。今までの彼女のチョイスに俺は楽しまされてきたのだから、きっとこの演劇も面白いのだろう。そう思うとなんだか見る前から楽しい気持ちになってくる。
ほら、レオンもローラ嬢もニコニコしているぞ。劇が楽しみなのだろうな。だが、なぜ二人ともこちらを見ているのだ?
ん?アテナ嬢の顔が少し赤いな。彼女も自分の好きな内容の劇に期待しているのだろうか。意外に可愛い面もあるのだな。
・・・
事件が起きた。
いや、不届き者が出たとか、火事が起きたとか、そういう類ではない。というか、別に他の者にとっては事件ではない。
おそらく、俺だけの事件だ。
俺の視線の先は、劇の方へ向いていない。今、非常に良いシーンなのだが、それどころではないのだ。
俺の目は、隣の『恋の女神』に向いていた。
彼女の目から涙が出ていたのだ。演劇に夢中で、劇の登場人物に感情移入してるのだろう。その端正な顔を濡らす一筋の道は、劇場の淡い光に照らされていた。
女神・・・と形容されるに相応しいほど、目に映る彼女の姿は、俺を惹きつけてやまなかった。
彼女が涙を流すほどに、劇は今、良いシーンなのだ。だから俺もそれを見るべきなのだろうが・・・。俺の目が、それを許さなかったのだ。もっとこの美しいものを見ていたい、と訴えていたのだ。
だが、どんなものでも終わりは訪れる。
「ど、どうなさいましたか?殿下?」
彼女の顔が不意に俺の方へ向いたのだ。
俺は突然のことに動揺してしまった。まさか「アテナ嬢の泣き顔に見惚れていた」などと、言えるはずもなく・・・。
「な、なんでもない!」
俺は顔を反射的に前に向けて否定した。ちょっと不自然だったな・・・。そっとしておいてほしいところだ。
「殿下、もしかしたら体調がすぐれないのではありませんか?少し顔が赤いようですが・・・」
アテナ嬢、なぜここで気配りができない!?
「い、いや、問題ない!俺は大丈夫だから演劇に集中しろ!」
存外に声を張り上げてしまったではないか。彼女もそれで大人しく引き下がってくれたが・・・気まずい・・・。しかも周りの観客の視線も痛い・・・。
ぐぬぬ、こんな恥辱を味わうハメになるとは、アテナ嬢め・・・。
俺は急に暑く感じるようになったこの場で、残りの劇を大人しく鑑賞することにしたが・・・その内容は全く頭に入ってこなかった。
そして、劇が終わった後は解散となった。とりあえず、ハプニングはあったが、レオンとローラ嬢の2人から、アテナ嬢を遠ざけるという、当初の目的は十分達成できただろう!
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