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05 ランドとレオン

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 これは、ダブルデートの数日前の話である。


 王城にあるランドの私室。
 学園から帰ってきたランドは、そこでレオンと談笑していた。

「アテナ嬢は随分とお前のことが気になるようだな」

 ランドは、今までの食事会で何度もアテナがレオンに話かけるのを目にしている。ランドの目には、アテナがレオンに気があるように映っていた。

「そうかな?そんなことないと思うよ、ランド」

 対するレオンは、アテナが自分とローラを恋仲にしようとしていることに気が付いていた。

 ところで、レオンはランドと2人だけの時には、彼のことを名前で呼ぶ。ランドがそう望んでいるからだ。
 2人は幼い頃から10年以上の交友関係がある親友である。ランドはレオンに、周りの目がある時には「殿下」と呼ぶことを許しているが、それ以外では対等な関係でいたいと願っているのだった。

「そうなのか?その割には随分とお前に話しかけているような気がするが」

 いつになく女性に関心を持つランドの様子に、おや?とレオンは思った。今までは、レオンに言い寄ってくる令嬢がいても我関せずといった態度だったランドもついに女性に興味を持ち始めたのかな、そう考えるとレオンの顔は微笑んでしまう。

「・・・何が可笑しいんだ?レオン」

 親友の表情の変化に気が付いたランドは睨みつけるように見てくる。昔から彼はこんな調子だ。

「ははは、ごめんごめん。めずらしくランドが女性に興味を持っているようだったから嬉しくなっちゃったんだ」
「別に俺はアテナ嬢に興味がある訳ではない!・・・ただ妙に俺と趣味が合うな、と思っただけだ」

 それは興味があるということでは?とレオンは思ったが、それを口に出すと親友が更にムキになることが容易に想像できた。

「確かにそれは僕も思ったね。本の趣味とかもそっくりだし、猫が好きっていうところも一緒だよね」
「ああ。・・・で、なんでアテナ嬢がお前に気がないことがわかるんだ?」

 話が戻ったところで、レオンは理由を説明した。

「アテナ嬢はね、ローラ嬢と僕をくっつけようとしているんだよ。彼女は僕に話しかけた後は必ずローラ嬢に話を繋いでいたから間違いないと思うよ。それにアテナ嬢は、カップルを成立させるのが得意みたいでね。他の令嬢達からは『恋の女神』って呼ばれてるみたいだよ」

 恋の女神、という単語を聞いて、ランドはハハハ、と笑う。御大層な二つ名が少しツボに入ったようだ。

「恋の女神、とは随分と大袈裟だな。ま、そう呼ばれているくらいなら婚約者くらいいそうだな」
「いや、それが彼女、婚約者どころか恋人もいないそうだよ。どうやら自分の恋愛には関心がないらしい」

 ほう?ランドは自分の想像が外れて軽く目を見開いた。

「それは意外だな。アテナ嬢はかなり・・・その、見た目もそれなりだからな。それなのに、自分の事よりも他人の心配をするとは・・・。今まで寄ってきた女の中には、そんなタイプの奴はいなかったな」

 途中で言葉を濁したが、アテナ嬢の容姿が非常に優れているとランドはしっかり認識しているようだ。

「確かに、彼女ほどの美女だったら相手はいくらでもいるだろうに、変わってるよね。・・・やっぱり少し興味があるんじゃないのかい?」

 今までここまで女性に対して反応を示したことがなかったランドの様子に、好奇心に勝てなかったレオンは恐る恐るだが踏み込んだ。

「まぁ・・・変わった女だからな。・・・ほんの少しな」

 お茶を飲みながらそっぽを向くランド。照れがあるということは、脈がありそうだ。これは女性に興味を持たせる良い機会かもしれない、と考えたレオンの頭に、ある考えが浮かんだ。

「・・・ねぇランド。今度さ、アテナ嬢やローラ嬢と4人で休日に街に出てみないか?」
「街にか・・・別に構わないが、なぜだ?」

 普段街にほとんど出ないランドは少し興味を持ったようだ。だが、若干警戒心もある様子。

「僕とローラ嬢は趣味が結構近いようだったから、もう少しじっくり話をしてみたいんだよ。ただ、彼女は奥手なようだから、誘ったらアテナ嬢もついてくるだろう。だから、ランドにはアテナ嬢の相手をしてもらいたいんだよ」

 それっぽいことを口にするレオン。ローラともっと仲良くなりたいという思いももちろんあるが、実はそれ以上にランドの女性への興味の薄さをなんとかしたいと思っている。それについては、陛下や王妃様からもよろしく頼まれていたのだ。

「ふむ、なるほどな。そういうことなら仕方ない。お前のためにひと肌脱いでやるか」
「ありがとう。そうと決まったら2人の都合を聞いてみるよ」

 ランドも満更でもなさそうな様子だ。

 ・・・おそらく、アテナも自分とローラの仲を進展させるために、デートの邪魔が入らぬよう積極的にランドの相手をするだろう。
 そう見込んだレオンは、デートでランドとアテナがどんな様子になるのかを想像し、内心ほくそ笑むのだった。
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