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06 キャスリーンの心境

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 私はあの後、いつの間に自室に戻っておりました。
 王都にある、フォンシュタイン公爵邸の自室です。
 どうやって戻ってきたのかは覚えておりません。

「私、殿下に・・・婚約破棄されたんだ・・・」

 ぽつり、とつぶやいてしまいました。

 そして、気づけば、つーーーっと一筋の涙が流れていました。

――かす。きみと こんやくはき したい
――こんやく を はき するという ことば の いみ だろう
――うん。このまえ、おっぱい と おしり が おおきいひと をみたんだ
――はだ が みどりいろ で あたま が はげていて ぼう を もっていた
――うん。かす も げんき でね

 今日、殿下に言われたお言葉が、頭の中で何度も繰り返されました。

 私はトロール以下なのか・・・というショックで思わず婚約破棄を受けいれてしまったけど・・・

 思えば、幼き日から今まで、15年。
 本当に長い間、殿下の婚約者として過ごしてきました。

 幼き日の思い出が、空っぽになった私の心に次々と蘇ってきます。


・・・


 最初に殿下にお目にかかったのは、私が4歳の時でした。
 お父様と共に王城へ一緒に向かい、そして、国王陛下と王妃様と一緒に・・・まるで絵本に出てくるような、絵に描いたような王子様、アフォード殿下とお会いしたのでした。

 当時の私は、アフォード殿下の御姿を見て、一瞬で恋に落ちました。
 一目惚れです。
 4歳で一目惚れだなんて、早すぎると思われるかもしれませんが、それは殿下の御姿を目にされていないから言えることです。

 殿下は本当に、誰もが魅了されるほどに魅力的だったのです。

 そんな御方が、私の婚約者になるなんて・・・。当時は婚約者という言葉の意味がよくわかっておりませんでしたが、将来結婚する相手、ということは理解しておりました。

 まるで自分が、物語に登場するお姫様になった気分でした。その日は殿下にご挨拶をして少しだけ一緒に遊び、家に帰ったのですが・・・私は興奮してその日、一睡もできなかったのを覚えています。


 それからしばらくは、毎日、私の頭の中は殿下でいっぱいになりました。
 殿下に会いたい!一緒にお話しがしたい!一緒に遊びたい!
 私はお父様やお母さまに毎日駄々をこねていたと思います。

 数日に一度、王城で殿下とお会いできる日は、私にとってかけがえのないものでした。
 その時の殿下は今のような感じではなく、本当に王子様然とされていて、私のことをちゃんと「キャスリーン」と呼んでいたと思います。


 しかし、そんな日々は唐突に終わりを告げました。

 突然、殿下と会えなくなってしまったのです。
 どうやら殿下は自室に籠ってしまったとのことでした。
 私はとても心配しました。殿下はご病気になってしまったのかしら!お見舞いにいきたい!
 そう願いましたが、それが叶うことはありませんでした。私は殿下に会えない寂しさで毎晩枕を濡らしました。

 そして、1か月ほどが経過した頃でしょうか?
 突然、殿下からお呼び出しがあったのです。私は喜んでお城に行きました。

 そこで久しぶりに出会った殿下は・・・非常におバカになっていたのです。

 確か、その時でしょうか?私のことを「カス」と呼び始めたのは。
 私は悲しみました。ひどい呼び名を言われたことも悲しかったですが、それ以上に激変してしまった殿下を見てです。お可哀そうに・・・殿下はどうしたら元に戻るのかしら?


 そう思った私は、その日から、勉強に励みました。
 殿下のおバカを治すためには、まず私が賢くならなければ、と思ったのです。
 そして、賢くなった私が殿下を元の賢くて素敵だった殿下に戻さなければ!と思ったのです。


 それと同時に、毎日、神に祈りました。

「殿下のおバカが治りますように」

 と。

 確か、それを始めたきっかけは、絵本で神に毎日祈りを捧げ続けると願いがかなう、という子供じみたストーリーを読んだからです。
 しかし、私は藁をも縋るような気持ちで必死に祈ったのでした。

 そして、勉強と神への祈りを続ける私に、一つの変化が起こったのでした。
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