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02 レンデス殿下の登場と上級婚礼

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「で、殿下!」

 観衆の中から我々の元へ歩いてくる人物に、グスタフ様は思わず叫びます。

 高い背丈にスラっと伸びた長い足。繊細にバランスよく整った顔のパーツに、皆を惹きつける黒髪と濃紫の瞳。
 そんな歩く芸術国宝と形容される、御姿が今、我々の目の前まで来ました。

 この御方の名前は、レンデス・アルダース様。
 このアルダース王国の、第3王子殿下であります。

「まず、クリスティーナ嬢の腕を放したまえ。レディに対するマナーとしてはあまりにも下品だよ」

 その殿下の御言葉に、私の腕を掴んでいた手が緩みます。侯爵家の使用人達は、おろおろとした目をグスタフ様に向けているようです。

「で、ですが、この女は・・・」

「グスタフ・ブランス侯爵令息・・・私は今、彼女の腕を放すように、と言ったのだが?」

 極寒の吹雪のような冷たい殿下の御声と、射殺すような眼差しに、グスタフ様は急いで使用人達に怒鳴りました。

「は、はやく手をどけろ!殿下の御言葉に逆らうつもりか貴様ら!」

 その言葉を聞いた使用人達は急いで私の腕から手を放すと、その場でビシッと直立不動になってしまいました。
 ・・・殿下の御言葉に逆らおうとしていたのはグスタフ様だったと思うのですが、彼は使用人達に罪をかぶせていらっしゃいました。

「よろしい。・・・それで、グスタフ。君はクリスティーナ嬢と婚約破棄をして、そちらのカミーユ・エーデルワイスと結婚すると宣言したが、その言葉に嘘偽りはないのだね?」

 声色が元に戻った殿下は、先程グスタフ様が口に出された言葉をそのままお尋ねになりました。どういう意図があるのかは不明ですが、その声は真剣そのものです。

「勿論でございます!殿下!」

 殿下の怒りが収まったと感じたのでしょう。グスタフ様は殿下へ元気よくお返事していらっしゃいました。

「そうか、わかった。ちなみに私は、大司教の肩書も持っているのだが、良ければ君とカミーユの結婚を上級婚礼としてこの場で取り持って差し上げようか?ただし、その婚礼の誓いは今後絶対に破棄できないものとなるが」

 殿下はそのようにおっしゃいました。このお言葉にはこの大広間にいる全員が驚きの声をあげました。もちろん私もです。

 殿下のおっしゃっている「上級婚礼」というのは、大司教以上のみが立ち会うことのできる最上級の婚礼の儀式です。

 お互いの永久の愛を神に対して誓いあうので、その後に離縁することは許されません。

 また、この儀式は非常に特殊で、一般的な結婚とは異なり、同性同士の結婚も可能となります。

 それほど重い儀式なのです。

 それをこの場で執り行おうか?と提案する殿下は、いったいどういったお考えなのでしょうか?


「お、おお!それは素晴らしいお考えです!さすがは殿下!どうかお願いいたします!」

 我に返ったグスタフ様が、殿下の御言葉に喜んで応じていらっしゃいました。殿下が自分に賛成してくださっていることが嬉しかったのでしょうか。


「カミーユ・エーデルワイスもそれでよろしいか?」

「はい・・・」

 殿下はカミーユ様にも、意思をお聞きになりました。
 そして、ここで初めて、カミーユ様の御声を聞くことができました。見た目通りのか細く、透き通るようなお声でした。

 両者の同意の声をお聞きになった殿下は、さっそく上級婚礼の儀式の言葉を口にされました。
 まずは、グスタフ様からのようです。

「グスタフ・ブランス、あなたはカミーユ・エーデルワイスと永久の愛を紡ぐことを、神に誓いますか?」

「誓います」

 グスタフ様が、そう返答されました。
 それを聞いて頷いた殿下が、今度はカミーユ様に語り掛けます。

「カミーユ・エーデルワイス、あなたはグスタフ・ブランスと永久の愛を紡ぐことを、神に誓いますか?」

「・・・・」


 殿下の問いに、カミーユ様はお答えになりません。どうしたのでしょうか?
 私と同様に、その長い静寂に周りの観衆の皆様も戸惑いの顔をされていました。

 ですが、その静寂は、驚くべきことによって破られたのです。










ボワン!





 突然、カミーユ様の身体が、そんな音とともに紫色の煙に包まれました。



「「 え? 」」


 殿下以外の全員が示し合わせたかのようにそう口にしました。 


 そして、カミーユ様を包んでいた大きな煙が無くなった、そこには・・・




 身の丈2mを超えようかという、巨大な男性が立っていたのです!




 そのお顔は非常に彫が深く、お口の周りにはお髭の青い剃り跡が目立ちます。

 男性は筋骨隆々の逞しい肉体を晒していらっしゃいました。

 かろうじて、腰の部分には、わずかな布切れが覆われており、大事なところは隠れていました。



 大広間では各地から悲鳴があがりました。私もあまりのことに悲鳴をあげてしまいました。
 その男性の隣にいた、グスタフ様も悲鳴を上げていらっしゃいました。

 ただ、殿下は驚いた様子もなく、平然としておられました。

 そして、悲鳴で荒れ狂う大広間の中心で、悲鳴を掻き消すほどの声量の、野太く、元気なお声が響いたのでした。






「   誓います!!!!!!!   」





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