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第三章 紫電の命運

act.53 お困りモニカちゃん①

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「ん? 待てよ」

 魔力の放出を初めて数秒。イグナールは一つの疑問――問題点に気が付く。

「魔力を充填することはいいんだが、そうすると守護者(ガーディアン)がまた動き出したりしないのか?」

 マキナの話では研究所のエネルギー不足で一部守護者(ガーディアン)が起動していないと言う話だった。探索の途中で見た、守護者(ガーディアン)を収納した倉庫にはあの銀狼がまだ十数体存在していた。

 狭い施設内を縦横無尽に駆け、侵入者を排除する四足歩行の造られた獣達。マキナの起点であの広い実験場で向かい討つことが出来たため、対処出来た。しかし、今起動すれば狭い廊下内で対峙することとなる。こちらの圧倒的不利だ。

「問題ありません。侵入者アラートは解除しております」
「そうか。なら安心だな」

 結果的には余計な心配であったが、もっと早く気が付き配慮する事柄だった。新たな力を発揮した戦いの高揚感がまだ抜け切れていないのか、危機意識が足りていなかったと自ら反省する。

 ◇

「はぁ……」

 イグナールとマキナの帰りを待つモーニカ・フォン・ハイデンライヒは深い溜息をついた。先の戦闘で背中に立派な勲章を背負い、それがキチンと治るか否かを悩んでいる。わけではない。モニカの回復水魔法は優秀である。即効性はないものの明日には傷跡なく完治するだろう。

 溜息で吐き出された心配事は自分の空回り具合である。

 彼、イグナールに良いところを披露しようと焦った結果……研究所の入り口を破壊。施設内の扉を破壊。それが起因となり不要な戦闘を招いてしまった。

 その戦いで負った傷を理由に彼との接近を試みたが、うまくいったとは言えない。イグナールの中でのモニカの評価は、幼馴染兼仲間の立ち位置。それからいかに脱却するかが重要なのだが難しい。

「こんなのどんな魔導書を読むより難しいよ……」

 一人となった研究所の廊下で愚痴を漏らす。大きな彼女の焦りの要因は二つ。まずはマキナの存在。戦闘人形を自称――あまりにも人間らしい風貌にまだ疑問が残る――する彼女とイグナールとの熱烈なキスシーンは今にも鮮烈に頭に残っている。

 マキナからするとあくまで業務上仕方なく発生した仕事程度の認識だろうがイグナールには刺激が強すぎる。それに加え、マキナには男女の営みをする機能まであると言う。これは由々しき事態である。

 そんなイグナールの欲望が爆発してマキナと行為に及ぶ可能性はありうる。思春期真っただ中の男子なんてものは亜人であろうが、魔物であろうが、スライムであろうとも欲求のはけ口を求めていると、かつて共に旅をしたデボラ・イッテンバッハが話していたのを思い出した。

 あのデボラ――モニカ内での経験豊富な大人な女性の代表――が言っていた男の生態の知識は確かな物であろう。

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