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第三章 紫電の命運

act.49 オレイカルコス

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「これはどんな金属で出来ているんだ?」

 イグナール自身、金属の知識に明るいわけではない。しかし、現代の武器では使われるような金属でないことだけははっきりとわかる。何故なら人が持つには重すぎるからだ。

 槍の全長は2mほどであろうか。形状は投げ槍として使われるジャベリンによく似たシンプルなデザインである。まさかこれ程の重さの得物を投擲するはずはないだろうが……マキナの力を鑑みるになくはない戦法と言える。

 そんなことがあれば鋭利な大砲と言えよう。

「とんでもない重さだが……なんの金属で出来ているんだ?」
「オレイカルコスでございます」
「聞いたことないな」
「加工することを念頭に入れたオリハルコンの模造品でございます」
「オリハルコン! すごい!」

 興味なさげにこちらを観察していたモニカがいきなり割ってはいってくる。武器にロマンは感じないが、オリハルコン――マキナ曰くオレイカルコス――製であることには非常に興味があるらしい。

「模造品と言っても本物と遜色のない品質のものかと」
「これってどうやって加工したの?」
「申し訳ございません、私にはわかりかねます」
「そっか、残念」

 オリハルコンはこの世で最も硬く、腐食などの劣化がない金属と言われている。それでいて繊細であり、加工が非常に難しい。加工後に特別な熱処理をすることで強度を更に増すことが出来るらしいが、炎魔法と鍛治が非常に秀でた者でしかまともに加工出来ない代物だ。

 世界に1つとは言わないが、希少であり職人を育てるために消費するほどの量はない。

 所々の遺跡で発見されるオリハルコンを再利用したり武器や道具に転化したりすることが多いと聞くが、マキナの話しを聞くとこの現代に出回っている多くの物が、昔に生み出されたオレイカルコスなのかもしれない。

 これだけの技術を持っていたならオリハルコンの模造品を生み出し、加工して武器として支給することは難しいことではないのかもしれない。マキナにしろ、この研究所にしろ、先の守護者(ガーディアン)にしろ、そう信じるに値する物を数々と見せつけられてきた。

「しかし、重すぎるな。オレイカルコス製の剣があったとしても俺では扱うことは出来ないな」

 両手で支えるのがやっとの武器を振るうなど、自らの体を壊しかねない、自傷行為甚だしい。やはり、これはマキナ達、オートマトン用に生み出された一品なのだろうと思う。

 イグナールは黒槍をマキナに返却する。彼女は片手でひょいっと持ち上げて見せる。踏ん張っていた力が行き場を失い、倒れそうになるのを堪えた。
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