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第三章 紫電の命運
act.43 回りだした歯車
しおりを挟む「えっと……降りようか? ごめんね、イグナールも疲れてるのに無理言って……」
只ならぬイグナールの様子に反省の謝罪をするモニカ。
「いや、大丈夫だ! 男に二言はない。緊張の糸が切れて少し力が抜けただけだから」
これは決して名残惜しいから言っているわけではない。何でもすると言った手前、こんなところで責任を放棄するわけにはいかない。決してやましい気持ちではない。断じてない。
決意を新たにスライム運搬の依頼を無事達成すべく行動に移る。
「マキナ、もう守護者(ガーディアン)に襲われる心配はないんだよな?」
「はい、現在動きはありません」
「そうか、俺達にとっては幸いだが魔界を目の前にした重要施設にしては……その……」
「拍子抜けでしょうか?」
彼女にとってこの施設をどう思うかを考え、言葉を選んでいる最中に図星を突かれてしまった。
「あ、ああ」
「この研究所には身を隠すための魔法が幾重にも張り巡らされておりました。今までその魔力を守護者(ガーディアン)から補っていたのです。ですので出撃できず眠っている機体も多く、少数になったのです」
確かに現在に至るまでこの研究所は現代の人間の目から完全に隠れていた。地下だからという理由だけではなかったのだ。現代でも一定の空間に立ち寄らせないよう意識を逸らす魔法や物理的に侵入ができないよう壁を作る魔法がある。恐らく、この研究所に施されているのは前者に似た魔法だろう。
彼女の案内が無ければ辿り着けない……マキナは必要最低限以外のことはあまり語らない。もしかすると道なき道を辿って森を歩いたのはその魔法に関係があるのかもしれない。
「まぁどっちにしろこっちは助かったわけだがな。マキナ、改めて案内を頼む」
「承知致しました」
スライムもとい、モニカをおぶる俺の前を歩き始める。広い実験場の扉を抜けると今だ赤く点灯している廊下にでる。警戒音も明滅もなく、ただ赤に染まった廊下を戻る。少々目に痛い光景ではあるものの、安全が保障されている道ならば文句もない。
人がすれ違う程度の幅しかない廊下。こんなところで先の銀狼と対峙していたと考えると恐ろしい。マキナの判断と案内に救われたとイグナールは思った。
しばらく歩くとあの部屋に辿り着いた。モニカが魔法で扉を破壊し、事の発端となった部屋だ。マキナがいうにはこの部屋に研究所の記録が保管されているらしい。マキナを先頭に一行がその部屋に踏み入る。
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