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第二章 紫電の剣
act.36 油断大敵、注意散漫
しおりを挟むマキナの行動と膂力に驚きを隠せないイグナールは、しばらく彼女の姿に釘付けになっていた。
「きゃあ!」
女性の叫び声で振りむくイグナール。そこにはモニカの目も前まで肉薄した銀狼の姿。牙と爪を鋭く突き立て、彼女に襲い掛かっている。モニカは魔力で生成した水槍で何とか凌いでいる状況だ。水弾は何発か残ってはいるが、いかんせん敵との距離が近い。
いくら魔力で身体強化を施しているといっても、単純な力の差は歴然。彼女は徐々に、床を滑るように後退している。
モニカは大丈夫だと思っていた。彼女の守りならば問題ないと思っていた。しかし、彼女の水弾を使った攻撃は唯一奴らに見られている。それを学習し、見切り、モニカの最も苦手とする間合いへと迫ったとしたら……
イグナールは数秒前の自分を殴りつけたいと思った。何が強くなったと言うのだ。大切な仲間を守れないで何の強さだと言うのか!
彼は自分を叱責しながらモニカの元へと駆けだす。
「モニカ!」
「イグナール!」
モニカはイグナールの駆け付ける姿を見て、表情を変える。苦しそうに歪んでいた顏が覚悟の顔へと変化する。
「アクアボール!」
彼女は漂っている水弾の1つを飛ばし、水槍に喰らいつき離さない銀狼の横っ面を殴りつける。驚異の魔法制御である。イグナールは水弾によって飛ばされるも、すかさず態勢を整えモニカに飛び掛かろうとする銀狼に切りかかる。
しかし、奴の死角と思われた攻撃は容易く躱される。少なくとも銀狼には一撃必殺の剣も当たらなければ意味はない。
「大丈夫かモニカ」
「う、うん。ありがとうイグナール」
イグナールはモニカの前に立ち、銀狼の前へと立ちはだかる。生き物としての鼓動は感じないが、生物としての体裁を残している守護者(ガーディアン)。奴らの視界の広さは判然としないものの、確実に死角だと感じた。だからこそ先の一撃を避けられたのには、酷く違和感が残るイグナール。
まるで見えていたようだった……しかし、モニカの放った横っ面を殴る水弾は避けてはいなかった。あれこそ視界の端には見えていたはずだ。
正面の1体にも意識を裂きながら、辺りを確認する。マキナが掴み、床に叩きつけていた1体は手足が無残にも折れ、生き物とはまた違ったグロテスクな内部が露出している。
後ろに控えていた4匹は……
「いない⁉」
イグナナールは動揺で、目の前の1体の存在を忘れ辺りを見渡す。奴らは遠巻きにこちらを睨み付けていた。
「危ない!」
モニカの声と共にイグナールは横からの衝撃を感じた。スライドしながら振り向くと後先を考えず、イグナールへと突っ込むように突き飛ばしたモニカが見える。
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