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第二章 紫電の剣
act.35 零刀両断
しおりを挟む3体の獣を模した人形がイグナール、モニカ、マキナそれぞれに襲いかかる。イグナールはバチバチと紫電を纏った剣を握り直し、奴らの強襲に備える。
モニカは大丈夫だろう。確かに彼女が初手に放った水弾は奴らにとって大きなダメージにはならなかった。しかし防御に重きを置いた彼女の布陣を破るのは、容易いことではない。
ならばマキナ……武器らしい武器もなく、彼女の実力は未知数。初見時の動きは追えるものではなかったもののそれだけしか知らない。イグナールは信頼しているモニカよりも先にマキナの助けを優先することを決めた。
まぁ、まずは俺がこいつをなんとかしないといけないんだけどな。
自嘲気味に笑い、こちらに飛び込んでくる銀狼を見やる。動きは狼型の魔物と大きく変わらない。打撃には強いようだが、斬撃はどうだ。
奴らの正確な動きを見る限り、銀狼の着地位置は寸分違わず先程まで俺がいたところだろう。
イグナールは剣を振り上げ、そのまま大きく前進する。銀狼の通り道にはバチバチと紫色の雷光をまき散らす刃が待ち受け、出迎える。最小限の動きで、相手の進む力を利用する。1対多になりやすい魔物との戦闘において、スタミナの消費を抑えつつ戦うことが重要となる。
勇者ディルク直伝の多くの敵を相手取るための心得である。
見上げ、頭上を通り過ぎる銀狼の経過を観察するイグナール。確かに刃と顏の部分が接触したのが見て取れる。しかし、手ごたえは伝わってこない。銀色の体に刃が通っていく。それでもまだ手ごたえを感じない。
頭の先から尻尾の先まで綺麗に真っ二つとなった。断面からは、銀色の体からは想像できないくらい色とりどりの金属が見える。が、イグナールには何であるのかはわからない。ただ、奴らが生きた物ではないことがはっきりとした。それだけだ。
2つに分かれた銀狼は左右に分かれ、光沢を放つ床にドシャリと音を立て転がった。
「なんて切れ味だ……」
ほぼぶっつけ本番でやってのけた剣への属性付与(エンチャント)は、本人も唖然とするほどの驚異的な切れ味を披露した。
戦える……この力があれば……
己が学んだ2年間とこの力があるならば。俺はもっと高みを目指せる。それを確信したイグナールであった。
イグナールはマキナの方に顔を向ける。無事でいてくれと願い彼女の様子を伺う。
「なっ……!」
マキナは自身に襲い掛かった銀狼の首を掴み、天高く振り上げている最中であった。それを勢いよく床に叩きつける。自ら頑丈だと言い放った実験室の床に大きな窪みを作った。
その人ならざる膂力は彼女が銀の狼同様、造り物の人形であることを如実に、雄弁に語っていた。
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