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第一章 紫電の射手

act.20 初めてのキスはどんな味?

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 イグナールの最後の抵抗も空しく、力が抜けた瞬間を狙われ最終防衛の扉が開く。すかさず隙間に差し込まれ、彼女の舌が力技でこじ開ける。

「んんんんんんんんんん!」

 無遠慮にイグナールの口内に侵入し、物色する。口蓋をじっくりと味わうように這いずり、歯茎を舐める。イグナールは両手両足をだらりと投げ出し、大人しくなる。そしてされるがままに口内をオカされる。

 イグナールは初めての体験に圧倒され気を失った。

   ◇

「充電が完了致しました。ただいまより貴方様が私(わたくし)の御主人様(マスター)として登録致しました」

 黒髪のメイドは満足したように唇を離すと、力の抜けたイグナールを支えながら言った。

「本日より貴方様の剣となり、盾となりましょう」

 淡々とした口調で話し続ける黒髪のメイド。そこでようやく意識がサルベージされたモニカが口を挟む。

「ちょっとアンタ何者なのよ! いきなりイグニールにきききっきキスするなんて! しかも濃厚なのを! 濃厚なのををを‼ 私だってしたことないのに……」
「申し訳ございません。些か緊急でしたもので……マスターは現在放心状態のご様子。今ナニをされても気が付かないやもしれません」

 だらりと脱力し、魂の抜け殻のようになっているイグナール。

「た、確かに今なら……千載一遇のチャンスかも……ち、ちがうの! これはきっキスとかじゃなくて、そう! 人工呼吸ってやつなのよ! ぐったりしてるし」

 このおかしな状況で、冷静な状況判断能力を喪失したモニカは自分に言い聞かせるように独り言を重ねる。

「これはイグナールを助けるため、助けるためなんだから……」

 黒髪のメイドに両脇を掴まれ、立たされている状態のイグナールに唇を突き出し近付くモニカ。お互いの息が当たるほどに近付いたその時、イグナールの体がピクリと動く。

「ん、お、俺は……モニカ?」

 目を覚まし、ボンヤリとした視界の中には、目を瞑り唇を可愛らしく突き出したモニカの顔が見える。

 イグナールの声に意識が呼び戻されるモニカ。目を勢いよく開き、目覚めたばかりで状況を判断しかねるイグナールと目が合う。

 バチンッ!

 頭が真っ白になって思考が出来ない彼女は反射で体が動いていた。放心状態から覚醒したイグナールはモニカの渾身のビンタで再び意識を持っていかれたようで、白目を向いた。

「い、いやあぁぁあぁぁぁぁぁ‼」

 心の内側で処理しきれない恥ずかしさが口から漏れ出て、静寂の森に木霊した。

第一章 紫電の射手 ―完―

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