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第一章 紫電の射手
act.17 ヒューマン・スライム
しおりを挟む「ヒューマン・スライム⁉ なんだそれ」
モニカの言葉を繰り返し尋ねるイグニール。
「スライムが人間を取り込んで進化した魔物よ……厄介ね、ここは一端体勢を立て直したいけど」
「逃がすものか! 『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『燃え盛る炎よ、形を成し顕現せよ』」
ヒューマン・スライムの背後に巨大な炎の球が形成される。先程モニカが作り出した水弾よりも1回り大きい。
「おいおい、あれ炎魔法だぞ! 何で2属性使えるんだよ!」
「うるさい! 今はそれどころじゃないわ! 『我に眠りし力よ、我が意思に従え』『揺蕩う水よ、形を成し顕現せよ』」
モニカはヒューマン・スライムが作り出した炎球と違わぬ程巨大な水弾を作り出す。
「フレイムボール!」
「アクアボール!」
ヒューマン・スライムが炎球を放つのに合わせ、モニカも水弾を放つ。それらはぶつかり合いせめぎ合う。煌々と燃え上がる炎は水を蒸発させ、水の固まりは炎の勢いを削ぎ落としていく。やがて大量の水蒸気をまき散らし文字通り霧散する。
辺り一帯を白い霧が包み、森と合わさりお互いの姿を眩(くら)ませた。
「イグニール逃げるわよ!」
イグニールの手首を掴み、ヒューマン・スライムとは逆の方向へと走り出すモニカ。彼女だけがこうなることをわかっていた。そのため、目の前の霧に驚かずにいち早く行動することが出来る。
しばらく森の中を我武者羅に走る2人。
「はぁ、はぁ……取りあえず逃げ切れたかな………」
肩を上下に揺らしながら立ち止まるモニカに余裕はなさそうだ。対してイグナールはまだまだ余裕があるように見える。
「それでアイツ、ヒューマン・スライムだっけか? 人間を食って進化って聞いたことねーぞ。それにどう言う訳か属性を複数持ってやがる」
「本来はスライムの属性って水が大半なんだけど……きっと魔石店に飼われてたスライムだわ」
「魔石店? 何でわざわざ魔物なんかを」
モニカは使い終わった魔石の処理についてイグナールに話した。
「それで炎魔法も使えるって言うのか」
「そうよ。複数属性の魔力を大量に取り込んで強くなったスライムが逃げ出して、人を襲い進化した。そしてこの森で仲間を増やしてたってことね」
「じゃあ、あんな魔物がもう一体いるのか?」
「それは安心して、スライムは分裂を繰り返して増えるの。自分の魔力を小さく分ける感覚かな。だからあのヒューマン・スライムをどうにかすればいいんだけど……」
さて、どうしたものかと顎に手をやり考えるモニカ。森を出てバージスに助けを求めたいところだけど、そう簡単に逃げ切ることが出来る? もし途中で見つかった場合さっきと同じ手が通じるとは考え難い。私の水魔法は吸収されるし、魔石は品切れ。
そこまで考えたモニカは最後の可能性に賭けることにした。
「イグナール、お願いしたいことがあるの」
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