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不死の姫と魔女戦争
93 幸せの一時
しおりを挟む「お久しぶりでございます。ブリュンヒルド様」
「ごめんなさいね、アヒム。こんな急に押しかけちゃって」
整った顔と、清潔感が溢れるアヒム・フォン・ヴィーゲルトは若くしてこのカフマンを任される優秀な男だ。今回は予定が急だったため前々日に使いの者を出して連絡をしたものの、快諾してくれた。
年も近いこともあり、私としては気安い友人として彼を認識している。
「お夕食は如何致しましょう?」
「そうね露店で少し食べたから、あとで頂いてもいいかしら」
「畏まりました。お部屋にご案内致しますのでこちらへ」
領主自らが私たちに部屋の案内をしてくれる。
「湯あみの準備も整っておりますので、ご自由にお使いください」
「何から何までありがとう」
アヒムは二階にある一室を案内し、一礼して部屋の扉を閉めた。
部屋にはベッドが二つ。私とリーザが一緒に寝るためわざわざ用意されている。ラルフはもちろん別室だ。布で包んだヴァルハラをベッドの脇に立てかけ、私はローブを脱ぎ、真っ白のシーツに突っ伏した。良い匂いのするシーツに顔をうずめ、フカフカの感触を味わう。
今朝まで自分のベッドで寝ていたのだが、それがもう何日も前のことなのではと思うくらいの懐かしさを感じる。
「あぁ、気持ちいい……」
「姫様、はしたないですよ」
「逆に、この誘惑に負けない貴方がすごいと思うわ」
そうやっているうちに意識が途切れ始める。これはいけない、ベッドの誘惑に負けてしまいそうだ。私は勢いよく起き上がる。
「如何致しました?」
「このままじゃ眠ってしまいそうだわ。湯あみに行きましょうリーザ」
「承知いたしました」
リーザが手荷物から手早く準備を済ませてくれ、二人で部屋を出る。勝手知ったる他人の屋敷、私たちの足取りは迷う様子もなく広い屋敷を進む。
◇◇◇
二人で大きく豪華に彩られた浴槽に浸かり、移動で失った気力を回復させた。部屋でリーザに髪を梳(と)かして貰っている間に夕食へ呼ばれる。王族であろうと質素を極めるベルクの食事とは違い、芸術なのではと思うほど豪華絢爛な料理に舌鼓を打ち、目も舌も楽しい夕食を過ごした。
「はぁ、美味しかった。馬車は辛いけど、この食事を楽しめるなら些細な問題だわ」
「姫様、食後のお茶でございます。アヒム様にお借りして淹れました」
ソファに座り、夕食の余韻に浸りながらリーザのお茶を飲む。幸せの一時とはこのことを言うのだろう。彼女の淹れるお茶はいつも美味しいが、この屋敷に用意されている茶葉で淹れたものは更においしい。
さすが、交易の拠点となるカフマン。食材から嗜好品までベルクでは到底揃わない物が取り揃えられている。
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