不死姫 忌み子のお姫様が自国の危機に国宝の聖槍を手に女王様となって悪役無双!

秋水

文字の大きさ
上 下
87 / 95
不死の姫と魔女戦争

87 剣と盾と双頭の狼

しおりを挟む

「終わったあぁぁぁ」

 ようやく目の前の仕事が終わり、机に突っ伏し伸びをする。一息ついてから私は机の引き出しにしまい込んだ書物と封書を引っ張り出した。それらを並べ、印を見比べる。

「どう見ても同じものよね」

 表紙を捲り、斜め読みで中身を確認していく。幼い頃日中外にでられず、暇を持て余した私は書庫に篭り数多くの書物に目を通していたつもりではあるが、この書物には覚えがない。

 かなり古いので文字は所々掠れて読みづらく、おまけに小難しい言葉が乱立している。もしかすると手には取ったかもしれない。しかし。その難解さに放り出した可能性がある。

 無心で読み進めていく。

 半分程読んでから本を閉じる。言葉がいちいち難しく、説明も回りくどい。書物の経年劣化も含めて中々読むのに苦労する書物だ。

 だが、この本の概要はわかった。これはいわば教典の類である。とある神の偉業を列挙し、如何に信仰に足るものであるかを書き記した代物だ。その神は北の国々、ノーデン地方で信仰されている神らしい。

 表題の印にある狼はその神の愛する動物で、信徒のことを表しているらしい。主を守り、異教の民や神を侮辱する者を断罪する……盾と剣はそれを表しているのだろう。言い方は悪いが、凶暴性を秘めた忠犬と言ったところか。

 それが黒の封書とどう結びつくかはまだ分からない。もう少し、この書物に踏み込んでみるしかないだろう。だが、いつも通りの仕事をこなし、こんな読みにくい書物と格闘していたのだ。正直かなり疲れた。もう一度表紙を捲って読み始める気力はない。何なら何も手を付けたくない。

 すると扉を叩く音がする。

「失礼致します。姫様、お茶が入りました」

 リーザがティーセットを持って現れた。

「さすがリーザ! まるで見計らったような登場ね!」
「国王様の従者ですから」

 表情は変わらないが、私の声に驚き、その内容に誇らしげな彼女。まさにリーザは従者の鑑だ。

「それで先の件は、何かお分かりなりましたでしょうか?」
「ノーデン地方の神とその信仰について書かれた教典じみた本ね。まだ詳しくはわからないけど、関係しているのは間違いないわ」
「神への信仰ですか。ベルクにも神話のようなお話はありますが、信仰のような文化はありませんよね。そもそもそう言った語り継がれるお話しが少ないように思います」
「そうね、アルビーナの話も少しくらい言い伝えがあってもいいとは思うけど……」

 初代ベルク国王、月の子アルビーナ・フォン・ベルク。聖槍ヴァルハラの奇跡で襲い来る帝国軍を退け、この地にベルク王国を建国した人物だ。彼女の詳細はその生涯を綴った書物が一冊しかなく、それは代々国王が受け継ぎ、書き写し、残されてきた。

 もしも意図的に伏せられているとしたら?

 一瞬だけそんな考えが頭をよぎった。しかし、その意図がわからないためすぐに頭の片隅に追いやられた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?

キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。 戸籍上の妻と仕事上の妻。 私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。 見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。 一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。 だけどある時ふと思ってしまったのだ。 妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣) モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。 アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。 あとは自己責任でどうぞ♡ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...