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不死の姫と魔女戦争
83 苦悩する騎士団長
しおりを挟むリーザとの茶会の後思った以上に仕事が進み、手透きになった私は城内の散歩に出る事にした。闇から生まれ落ちたような異様な姿をした槍、聖槍ヴァルハラを携え部屋を出る。ベルクが昔から所有する国宝であり、私の不死の源だ。
正直、ヴァルハラに関することは今だよくわかっていない。現存する書物が少ないのか、そもそもこの槍のことを記した物が少ないのか……
何はともあれ、肌身離さず持ち歩いている。いつ何時(なんどき)戦いになるか、わからないのだから。
窓から夕陽が差し込み、城内を茜色に染め上げる。歩く度に靴がかき鳴らす、コツコツと言う乾いた音が耳に心地良い。これがもう少し歩きやすい代物であればいいのだが……ヒールと言ううのは六年たった今でも慣れない。根本的に合わないのだろう。
「全く、お母様にも困ったものね。淑女であり、王でもあるならヒールを履くべきだなんて」
六年前ならば私はただの姫であり、人前に出ること皆無だった。こんな飾り気のあるものにはさしたる興味もない。まぁ、それは今でもそうではあるが。
慣れないヒールで床を叩きながら一人城内を歩く。
「ふん! ふん! ふん!」
中庭から聞こえてくる音に誘われ、窓から覗き見る。そこには木剣を振るうラルフの姿があった。近くには同じ木剣を持ち、彼を見るリーザの姿もある。
私は身を屈め、こっそりと中庭への入り口を目指す。二人の様子を観察しながら茂みに隠れつつ近付く。
「ほらラルフ、腕が下がってきていますよ?」
「いやリーザ、俺は、君に、勝負を、だな」
「だから負けたら素振り百本と引き換えに、さっき勝負してあげたじゃないですか?」
素振りをしながらなので、言葉が切れ切れのラルフ。どうやら彼女に負けて罰としてやらされているらしい。ラルフは現在二十八になったのだったか。事情はあれど、若くしてベルクの騎士団長となった彼は、この六年間立派に勤め騎士団内での信頼も厚い。
少し頼りなく見えるときもあるが立派なものだ。気遣いも出来るし、端正な顔立ちの彼にもそろそろいい人が出来てもいいとは思うのだが、そう言った浮いた話はてんで聞かない。まぁそれはリーザもなのだが。
それってまさか……改めて彼らを覗き見る。
「さぁ百本終わったぞ! 勝負だ!」
「どうしてそこまでして私との勝負に拘るんですか?」
「それは……俺は、リーザ」
こ、これはまさか⁉
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