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11 化物

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 呪いの力で傷は全快した。
 少し違うか……正しくは、ヴァルハラを手にした瞬間に戻ったと言うべきだろうか。
 私は立ち上がりおびえる兄弟を一瞥する。

「クソッ! くそっ! クソっ!」

 ブルーノは切っ先を私に向け憤る。
 その矛先は依頼人にか? 安易に依頼を受けた自分自身にか? それともこの不条理にか?
 全てだろうか。数多の修羅場を経験したであろう彼でもこんな経験は初めてだろう。

「た、頼む! 見逃してくれ!」
「悪いがこの力を見られたなら帰すわけにはいかないな」
「この依頼は降りるし、このことは誰にも言わねぇよ。せ、せめて弟だけでも頼む!」

 震える剣先が彼の心情を物語る。
 目尻には涙。本気の訴えだ。

「うおおおお!」
「やめろ! バルトルト!」

 雄たけびを上げたのはバルトルト、弟の方だ。兄の制止を振り切り、左手に大斧を掴み振り上げる。
 私は右拳に力を込め、振り下ろされる斧の側面を殴りつける。
 凄まじい衝撃音と共に斧の刃の部分が粉砕される。殴りつけた自身の拳も指が本来の可動域を超えてあらぬ方向へと曲がっている。
 だが、すぐさまヴァルハラから影が伸び修復する。

「なんなんだよ……不死身で怪力の化物って」

 ブルーノは膝から崩れ落ちた。絶望、彼の顔を形容するならそれだろう。

「失礼だな、傷を治した力は確かに人智を超えた代物だが、力は本来私が持っているものだ」

 嘘ではない。これはヴァルハラの力ではなく、私自身の膂力だ。
 これこそが人間が本来発揮しうる力だ。人が無意識下に抑え込んでいるものを呼び起こしたにすぎない。とは言っても先程のように人の体はそれに耐えうるようには設計されていない。
 痛みを顧みず、体を顧みず行使出来れば、小娘でも鍛えた鉄を砕くことは難しいことではない。

「さて、ヴァルハラへ赴く前に貴様たちに依頼をした人間について聞きたい」
「正直に話す……だから弟だけは助けてくれ」

 剣を捨て、完全に戦意は消失している。
 先程からブルーノは弟の安否ばかりを気にかけている。

「たった一人の家族なんだ……」
「兄貴……俺は兄貴がいねーとなんも出来ねえ。だから死ぬときゃ一緒だぜ」

 家族か……
 兄弟はただ震えている。とても弱弱しく、子供のように。

 この秘密が外に漏れるのは危険だ。
 つまりこの二人を生かしておくことが危険だ。
 だが……

「殺さぬ代わりに拘束させてもらう。依頼人の話も聞きたいしな」

 平和は人を鈍らせる。
 それは不死の私でも例外ではないらしい。
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