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不死の姫と勇敢な騎士
69 捕虜
しおりを挟む「ベルクの騎士たちよ! 我々は戦いに来たのではない! 交渉をしに来たのだ!」
私たち黒塗りの鎧たちの間に一人の男が躍り出た。立派な髭を蓄えた中年の男だ。黒い鎧を着て背中にはマントを羽織っている。いかにも上流階級の騎士様と言った出で立ちである。
「交渉だと?」
ラルフが横に並び訝る。
「我が自慢の帝国軍を前にし、ここまで凌ぐとは誠、素晴らしい! 敵ながら賛美の言葉を送りたい」
我が自慢の帝国軍の言葉から察するに今回の遠征を取り仕切っている指揮官であろう。名乗りも上げず、我々に送る賛美もどきの言葉。
「だが、もはやこれ以上は不毛な戦いだと思わないか?」
ふざけるな! その戦いを始めたのはお前たちだ。
「くっ!」
「お待ちください姫様」
駆けだそうと身を低くした瞬間、ラルフに肩を掴まれ呼び止められる。
「それに我々は昨晩、とんだネズミの侵入を許してしまい、全ての食料をなくしてしまった。そこでだ、そのネズミと引き換えにベルク王との謁見を願いたい。ベルクは民を一番に考える国だと聞き及ぶ。その国王がどれ程の器か、ぜひお会いしたい」
どこまでも見下す態度の指揮官。捕虜と引き換えに国王との直接交渉をしに来たと言う。まったく、ふざけた話である。後ろに黒塗りの壁を並べて何が交渉だ。
「姫様……どうなされますか?」
小声で問うてくるラルフ。しかしその表情は決心はとうについていると物語っている。
「貴方にしては珍しく愚問ねラルフ」
「いえ、こちらにも心の準備が必要ですので」
それだけの会話を交わし、私は一歩前に踏みでた。
「私――我が現ベルク王国国王、ブリュンヒルド・フォン・ベルクだ!」
先程までたっぷりの余裕を見せていた指揮官の表情が崩れる。それは何の悪ふざけかと言いたげである。しかし、そんなことは無視をして話を続ける。
「率直に聞こう、その娘と引き換えに何を欲する?」
「いや、まさかベルクの国王がこんな小娘――ゴホンッ失礼。うら若き女性だとは」
「無駄話はいい! 何を欲する?」
私の気迫に気圧され、たじろぐ指揮官。この程度の男が帝国軍の指揮官とは……立派なのはその髭と、汚れ一つない鎧だけだ。
「我が軍が帝都まで帰還するための水と食料を頂きたい」
「了承した。準備をさせよう。さぁその娘を返してもらおう」
今度は困惑した表情を浮かべる指揮官。ここまでの速さで交渉が進むとは思っていなかったのだろう。そもそもこんな交渉は破綻している。たった一人の命を引き換えにするには重すぎる要求だ。
端から後ろに控える軍を使って脅す気だったのだろう。人質の交換も、これで王を引きずり出せるなど考えていなかったに違いない。だが少数で帝国陣地に侵入し大打撃を与え、仲間を逃がすために一人残り奮闘したリーザは英雄だ。
指揮官の狙いは……
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