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不死の姫と勇敢な騎士
63 砲手
しおりを挟むいよいよ作戦決行の時が来る。皆が緊張の面持ちで騎士団長であるラルフの合図を待っている。ピリピリとした独特の空間である。日が落ちる直前から開始され、夜になるまでに撤退。
時間にすれば大したことないかもしないが、その短い時間に自分の生死を左右する戦いが行われる。今までただ受け身で追い返すことを考えていた防衛戦ではなく、こちらから殺し合いを要求する。
作戦の内容を考えるとこれはただの陽動、囮であるのだが人死にが出る可能性は十分に高い。訓練を受けただけの騎士団でどれだけ持ち堪えることが出来るだろうか。それは戦いにおける技量の話ではなく、心の問題だ。
だからこそ、私とラルフが率いる二つの先行部隊の中でも、先に出るのは私の槍部隊だ。一度相手の死を乗り越えた部隊だからの起用。人を殺した経験を積んだ部隊だからの起用である。
「槍部隊前へ! 続いて直剣部隊が続け!」
やや後方からラルフの号令が響く。
騎士団長統率の元部隊が動き出す。地を蹴り、鎧の擦れ合う金属音をかき鳴らし、相手に伝える。ほら、我々は出てきたぞ、食いつけと。しかし、誰一人として貴様らの餌なぞになってたまるかと闘志を燃やす。
前方に見える、大砲を設置している辺りで帝国軍の慌てる動きが見える。どうせ奴らは出てこないと高を括りその場に三人の砲手を置いたままだ。
慌てて火薬を入れ始める砲手たち。今から砲撃の準備をしても到底間に合わないだろうが、彼らは混乱の渦中にあるようで放棄すると言う選択はないらしい。私は部隊よりも先行して走り出した。
ヴァルハラが届く範囲になってからようやく砲手たちは逃げる仕草を見せる。さぁ逃げろそしてベルクから我々が出てきたことを伝えろ。だが、一人だけは腰に携えた剣を引き抜き応戦の構えを取る。正面から剣が槍に勝てる道理はない。そもそも、腰が引けて震える彼にそんな考えは浮かんではこないのかもしれない。
私は自分でも不思議に思えるくらいに冷静に相手を見ていることに気がついた。急所である首がさらけ出されているのもよく見える。剣の間合いの外で制止を掛け、前に進む勢いを右手に集約し、聖槍を突き出す。
砲手は、剣を構えたままの体勢で固まっている。目線だけが槍の切っ先を追い、そのまま首が貫かれるまで動かなかった。
「あが、が」
首を槍に貫かれた砲手が崩れ落ちる。濡れた血で滑り、槍が抜ける。ドシャリと音を立てて地に落ちる頃にはすでに、砲手だったそれを見ていなかった。
夕日に照らされ、迫る黒塗りの鎧たちを睨み付けていた。
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