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不死の姫と勇敢な騎士
53 轟音
しおりを挟む「あんな物を持ち出してくるなんて……」
どうする? 恐ろしい代物だとは聞いている。しかし、大砲を売りたい武器商人の話だ。精度も強度も実戦に投入出来る程とは思えない。もしかしたら演習の延長として考えているのかもしれない。
だた護りを堅めてテコでも動かない私たちは大砲の良い的だろう。慌てふためく私たちをよそに火薬を詰め、砲撃準備を進める帝国軍。最後に球状の石弾を詰め込み発射準備が完了した。火を入れる砲手だけを残し、他は退避する。
発射直前、帝国とベルクは両者共に出来ることは固唾を飲んで見守ることしかない。片方は撃ち破れと、片方は壊れろと。まさに戦いの火蓋が切られる。
ドゴォォォォォン!
静寂を切り裂いて轟音が鳴り響く。鼓膜を震わせる音がそのまま身心を震わせるようだ。緊張が最高潮に達する。石造りの砲弾は、昨日急ごしらえで立てた柵を直撃し、派手な音と共に粉砕した。
砕かれた丸太が所々に飛び散るが、十分に距離を取っていたのが幸いし、負傷者はいない。ホッと一安心したのも束の間、団員の一人が大声を上げる。
「騎兵隊が来るぞ!」
砲弾の着地地点を注視していた皆が揃って前方を見る。ざっと十程の騎兵が突撃を開始していた。後方にいた部隊が大砲の音を合図に走り出したのだろう。
「まずい、防壁が間に合わない!」
大砲の役目は関所の破壊ではない、防壁を後ろに引かせること、騎兵に邪魔な柵を破壊することだ。防壁部隊をぎりぎりまで後ろに下げたことで弓兵は展開出来ていない。
盾と重厚な鎧を纏った壁役では展開が遅い。その間を狙っての騎兵での奇襲。
「私が前に出る! 槍兵隊続け! ラルフ、後の指示は頼んだ!」
「姫様!」
私は関所内を走りながら叫んだ。ラルフの声に構っている暇はない。
「道を開けろ!」
関所を出て防壁部隊を左右に退かせ、私を先頭で飛び出す。騎兵を使った強行突破はいずれ行ってくるだろうとは踏んでいたが、その機会を大砲で作るとは……
「急げ!」
後に続く槍兵隊を急かし目的の場所を目指す。騎兵を相手に今対抗出来る方法は火で焼き払った城壁の残骸。あちらは馬でそれを飛び越える算段だろうが、こちらは着地を狙って制す。
訓練では百戦錬磨の新兵たちを素人の化物が率い、百戦錬磨の騎馬隊に立ち向かう。
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