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不死の姫と勇敢な騎士
50 朝食
しおりを挟む当たり前のことだが、どんな時だって必ず夜明けはやってくる。それがたとえ望まぬ朝だろうとだ。非日常の真っただ中だと言うのに、日常以上に穏やかな朝だと感じた。今までの出来事は全部夢の中でのお話で今からいつも通りの日常が始まるのだと考えてしまうほどに……
だが、起き上がって姿見の鏡を見たとき一気に現実に引き戻される。昨日の戦支度のままの恰好、ほのかに臭ってくる肉の焼けた臭い。その臭いが鼻腔をくすぐり昨日の光景を鮮明に思い出させた。
胃には何もないと言うのに体は何かを出そうとしている。それをぐっと堪えて深呼吸する。こんな弱さと脆さも、不安も恐怖も全部全部一緒に吐き出してしまえればいいのに……しかし、きっとここで吐き出してしまうのは決意の方だと思った。
「姫様、朝食の用意が出来ております」
部屋の扉越しにリーザの声が聞こえる。もう一度深呼吸する。
「今行くわ」
心を落ち着かせ、いつも通りを思い出しながら返事をする。私は強くあらねばならない。
いつもは自室でとる朝食ではあるが今日は城の食堂に顔を出す。そこには騎士団の面々が揃い、朝食を前に静かに立っていた。私が来るのを待っていたのだ。
少し私を見る視線に侮蔑が混じるように思える。恐らく昨日の作戦のせいであろう。新しい国王は騎士道をなんと心得るか。王は騎士のことを何も知らないのでは無いかと。
「おはようございます! ブリュンヒルド国王様!」
皆の挨拶に少し驚く。礼義を尽くした挨拶が少し心に痛い。私の勘違いであろうが当て付けにも感じる。
「皆、楽にしていいわ。各自食事を済ませて準備をして頂戴」
彼らに食事を促すと、カチャカチャと小さく食器たちのぶつかり合う音が聞こえる。私もリーザに導かれ、皆の様子が一望できる席に着く。朝食は一切れのパンと干し肉、ベルクイモのスープだ。北の通路が封鎖されているために食料事情も逼迫(ひっぱく)している。
まだ餓えることはない、それが現状だ。
私は乾き気味のパンを一口にちぎり口の中に入れる。十分に咀嚼していると口中の水分を持っていかれてしまった。乾きにうめく口内の指示に素直に答え、スープを啜る。ほのかに甘いベルクイモの味がする。
美味しい。
次に干し肉を取り、犬歯を使って巧みに噛み千切る。硬い食感の中に辛いくらいのしょっぱさと肉のうま味が口に広がり、やはりスープが欲しくなる。今度は煮込まれ柔らかくなったベルクイモも口に含む。塩辛さに支配された口の中にイモの甘味が広がり、まるで甘味なのではと錯覚させる。
すごく美味しい。
私は何かから解き放たれたように、それらを次々と口に運ぶ。パン、スープ、干し肉、スープ。普段ならば行儀が悪いと何度リーザに指摘されただろうか。お構いなしに口に運んでいると干し肉とは別のしょっぱさを感じた。
私は自分でも知らず知らずの間に涙を流していたようだ。
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