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不死の姫と勇敢な騎士
47 人道
しおりを挟む始めは驚きと苦い表情を浮かべていたベルク騎士団長ラルフ・ヴァルツァーは騎士団をまとめ上げ、今回の作戦実行へと駆り立ててくれた。
「これは父の一件とは全く別の問題であり、贖罪のためではありません。貴方のベルクを憂う気持ちは私も同じです。ならば、我々は成すべきことを成すだけなのです」
そう言って私を支えてくれた彼の言葉、私を見つめる瞳に宿る決意はどれだけの時間が経過しようとも忘れないであろう。文字通り永遠の記憶として残り続けると確信した。
「第二波が引いていきます!」
「よし、追撃はするな。直剣部隊を引きあがらせるんだ」
黒塗りの重装部隊が引き上げていく、こちらの損害は今だにない。アルビーナが残した戦い方が大いに役立っていることの証明だろう。古典的な戦いではあるが騎士団の力とベルクの土地がそれを効果的な戦法へと昇華している。
「第三波来ます! 盾を持った重装部隊です!」
こちらの防壁のように前方にどっしりと盾を構え、じりじりと近付いてくる。動く城壁と化した黒塗りの騎士たち。その後ろには軽装の突撃部隊が控えている。完全防備の前衛がこちらの防壁を崩し、速さの軽装部隊が突撃を試みる算段なのだろう。
だが、簡単に切り崩せると思うな。
「ラルフ、例の作戦だ」
「……しかし――」
「汚名は私が全て被るわ。命令よ!」
これまでも騎士にあるまじき戦いの模様であったが、これから行うのは決意したラルフをも躊躇させるものだ。曰く卑怯、曰く汚い、曰く人道から外れる。
防壁を散開させ、数個の樽を持った騎士が前に出る。口を開け、勢いよく転がす。なだらかな坂とは言え、樽たちは中身を零しながら、徐々に勢いを増して重装部隊の構える盾に派手な音を立てぶつかり砕けた。やや粘性のある液体や、風上であるにも関わらず関所まで届く独特の臭いを放つ液体がばら撒かれた。
「放て!」
樽が転がり行く際に零れた液体の道の出発点に松明をあてがうと、濡れた地面から炎が上がり坂下の城壁へと迫る。構えた盾を放り出し、慌てふためき、喚き散らすがもうすでに遅い。炎は恰好の獲物を見つけたと喜々として襲い掛かり、本能の赴くままに広がり、前衛部隊全体を包み込んだ。
炎の大口に飲み込まれ、絶叫と共に重い鎧を身に纏っているとは思えぬ動きで跳ね周り、転がり回る。助けを求め、後方の軽装部隊に迫る者までいる。混乱と炎に包まれ、肉の焼ける臭いをまき散らし、黒塗りの城壁は沈黙した。
酒の原料や油を使った火計は見事な成功を収めたものの、歓声を上げる者は誰一人としていなかった。
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