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14 理想

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「駄目だ、お前たちを危険に晒すわけにはいかない。それは不死の……私の役目だからだ」
「いいじゃねーか。アベル、だったなお前男だよ」

 口を挟むのはブルーノ。表情を緩め飄々と語る。

「姫さん、死なないあんたが火の粉を払うのは確かに合理的だが、大切な女のあんな姿は見たくない、だから命賭けて守りたい。理屈じゃねーんだわ」
「すまないが黙っていてくれ。これは私の、この国の問題だ」
「いや、黙んねーよ。あんたはこいつが勇気出して言い出したことを無下にできんのかよ。こんなにあんたを慕ってる奴の気持ちを無視するって言うのかよ」

「黙れ!」

 私の怒声で関所内に響き渡る。
 勝手なことだ。

「これだから男と言う生き物は! そんな理想を語って私の前で死んでいった者たちが、どれだけいると思う! 私の気持ちなんて考えず、どれだけが散って逝ったと思う! 置き去りにされる家族を、私を何故顧みない……」

 取り乱し、抑制の利かない感情を振り回す。
 そして私は関所を飛び出した。後ろから私を呼ぶ声が聞こえるがそれに答えることもなく走った。
 まだ深紅の水溜まりと死体の残る戦場を後にし、坂をくだった。
 こんなところ誰にも見られたくない、こんな顔を誰にも見られたくない。
 三百年もの付き合いだと言うのにこいつは言うことを聞いてくれない。
 どれだけ抑えても零れ落ちてくる。

 ああ弱い、私はどうしようもなく弱い。
 どれだけの年月が経とうとも、どれだけ自分を取り繕うとも中身は変わらず十七の小娘だと言うのか。

 彼の言葉は嬉しかった。アベルの気持ちが嬉しかった。
 あんな私を見て恐いはずなのにそれでも私を慕ってくれた……嬉しかった。
 そして、同時に恐かった。亡くすのが恐ろしい。

 自分勝手なのは百も承知。
 しかし、どうしようもなく許せないのだ。
 私の前で倒れていくのが、こんな私を庇って死んでいくのを見届けるのはとても辛い。

 皆いずれ死ぬ。遅かれ早かれ不死の私を残して逝ってしまう。
 幾度となく経験してきた。親しい者たちの別れ。だからせめて家族や友人に見送られて旅立ってほしい。そのために私だけが戦って、私だけが傷付けばいい。
 体は痛いが心は痛くない。

 どうしてお前はあの時笑った……
 どうしてあんなに幸せそうな顔で逝ったんだ。

 教えてくれ……ラルフ。
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