上 下
10 / 11

見知らぬ、天井

しおりを挟む
「知らない天井だ」

 あたりを見渡す。テントの中には現在俺が寝ているのを含め、簡易ベッドが二つ並んでいる。兵士達が使っていたものだろう。入口の方からは光が漏れ、現在夜ではないことは確認できる。あれからどのくらい意識を失っていたのだろう。

 体を動かそうとすると、骨が痛む。おもわず「ツッ」と声が漏れる。右の手を動かそうとしたとき、誰かがそこにいると気が付いた。何とか上半身を起こし確認する。
 アリアが俺の手を握りながら椅子に座り、口を開けながらスヤスヤと寝ていた。
「こいつ静かにしてれば、貴族のお嬢様だし美人なんだけどな」

 入口の布が開かれ、光が一気に差し込む。急に明るさが変わった為、俺は目を細める。
「あ、気が付いたです」
 ソフィアが、軽食を持ち、こちらへ歩いてきた。アリアはまだ寝ている。
「俺、どのくらい寝てた?」
「丸一日です。その間、ずっとアリアさんが側にいたです」
 ドラゴン相手に戦ったのだ。骨が痛むだけで済んでいるのは、俺が寝ている間もアリアが回復魔法をかけてくれたおかげだろう。彼女だって、ドラゴンの攻撃を跳ね返したのだ。俺と同じように寝ていてもおかしくないのに。

「そうか、感謝しないとな」
「とても心配そうにしていたです。お二人は結婚してるです?」
「―――って、え、何言ってんだ。してない!」
 不意なキラー質問にまごつき、自分でも気持ち悪い話し方であったと分かる。
「そうです?私はお似合いだと思うです。じゃあ付き合ってるです?」
「付き合ってもいない!」
 エルフはなんでもかんでも、そういう考えに繋げるのか―――?
「アリアは大切な俺の仲間だ」

「ソフィアにはそうは見えないです。……特にアリアさんは」
 ソフィアは手に持っていた軽食をテーブルに置き、俺の反対を向いて小さな声で話した。
「なんて言った、もごもご話すな。聞こえないぞ」
 ベットから、半身を乗り出す。

「なんの話をしているんですか」
 ねぼけた様子でアリアは体を起こした。今の会話聞かれてないだろな。
「えっと、アリアさんと……」
 俺は立ち上がり、急いでソフィアの口を閉ざす。もごもごと何か言っているがかき消すように俺は声を出した。
「なんでもない」
「顔赤いですよ。どうかしましたか?」
 アリアのその言葉で、さらに血液が顔に上る。
「ソフィアが病み上がりの俺を、急に立ち上がらせたからだ。少しは労わってくれ」
 ソフィアは、口を押えている俺の腕を振りほどき、こちらを向いた。
「ハルさんが勝手に暴れているだけです」

「ったく、で俺が寝ている間何かあったかアリア」
 小声でソフィアが「話変えたです…」と言ったが無視をする。
「ドラゴンを倒した後、ハルさんを含め負傷人はたくさんいました。近くに野営をし、現在も手当てをしています」

「そうか……何人犠牲になった?」
 俺たちが到着した頃には、すでに戦闘から数分立っていた。勇者として冒険していたからわかる。魔族と戦うことは命懸けだ。すべてが上手くいくはずがない。それは勇者として上り詰めたことがある俺でもそうだ。すべては守れないことを俺は知っている。
「五名、亡くなったそうです」
「……助けられなかったか。勇者解任されて当然かもな」

 再び、テントの入り口が開いた。
「そんなことありません、ハル様。あなた方が助けに入ってくださらなかったら、私を含め、今生きている者たちも確実に命を落としていたでしょう」
 戦闘中、部隊を立て直そうとしていた兵士がそこにいた。
「よかった、助かっていたんですね」
「はい、あなた方のおかげです。私は部隊長のジークです。ハル様、私はあなたが勇者に戻るべきだと考えています」
「どういうことだ?」

 前勇者が復帰するなんて聞いたことが無い。そもそも、異世界召喚事体がイレギュラーのため、俺のようにまだ戦える力がありながら解任されるなんて初めてのことだが。それでも国王が決めた勇者に反対するなど、よっぽどのことがあるのか。

「私は国軍として数週間、異世界勇者のカケル様に使えましたが、彼はとても勇者の器ではありません。それに比べれば、ハル様はまさしく勇者の器です。今、国民が求めているのは前勇者のあなたです。現にご自身の危険を顧みずドラゴンから私たちを助けてくださいました。立派なことです、勇者解任させて当然などと言わずに、胸を張ってください」
 ジークは静かにだが、しっかりと俺たちの目を見て真剣に話した。
「ありがとう。素直に受け取っておくよ。それで勇者カケルは、何をしているんだ?」
 これほどまでに国民に不人気な現勇者は一体俺たちが国を出てから何をしたのか?そして、今何をしようとしているのか?どこに向かっているのか?疑問点は尽きない。
「はい、私が知っている範囲で答えさせていただきます」
 ジークは木の椅子に腰かけ口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 事業に失敗した父親の借金の返済期限がやって来た。数十人の金貸し達が屋敷に入って来る。  屋敷に一人残された男爵令嬢の三女カノン・ネロエスト(17歳)は、ペットの大型犬パトラッシュと一緒に追い出された。  長い金髪を切られ、着ていた高価な服もボロ服に変えられた。  そんな行く当てのない彼女に金貸しの男が、たったの2500ギルド渡して、冒険者ギルドを紹介した。  不幸の始まりかと思ったが、教会でジョブ『道具師』を習得した事で、幸福な生活がすぐに始まってしまう。  そんな幸福な日常生活の物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...