黒い記憶の綻びたち

古鐘 蟲子

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00.プロローグ

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 まず始めに、プロローグというか先ほど起こったことを書かせてほしい。

 我が家には私と夫と三人の子がおり、内下の二人はまだ幼稚園児である。
 時刻は投稿時間を見てわかる通り夜。川の字に一本足したかたちで、部屋の窓側から私、長女、夫、次女で寝ている。

 次女はよく寝言を言う子だ。加えて、スマホの明かりも眩しくて寝られないから消してくれと言われることがある。

 先ほどその次女が、

「長女!長女が来ない!長女!」

 と寝言で叫び始めた。

 それに加えて、私のこの文を打つスマホの明かりが嫌だったのか、泣きながら唸っていた。

 眩しかったかな、悪いことをしたなと少しの間スマホを裏返し、画面はつけたまま明かりを極力目につかないように配慮していた。

 しかし次女は機嫌が悪く、時折唸っている。

 夜泣きかな。次女の隣にいる夫があやしてくれるだろうか。

 少しそんな期待をしていた。

 ──と、そこに。
 私の隣に寝ている長女が寝言を言い始めた。

「やーだ!やぁだ!」

 何かを拒否している、そんなふうな寝言が少しあって、しかし長女はまた眠りに落ちた様子だった。

 二人ともどんな夢を見ているんだろう。
 そう思ったときだった。

「まだそこにいるんだけど」

 はっきりとした口調で、しかしいつもの舌っ足らずな言葉で、次女がそう言った。


 それから体感で二十分くらい経つだろうか。子らの寝言はそこで途絶えている。

 しかし気になるのは、私がこの話を書こうと思い立ったタイミングで、何やら意味深そうな子らの寝言である。


 ある漫画作品で昔読んだが、他人の寝言には返事をしてはいけないというのがあるそうだ。

 私はその作品を読んでから、少し気にして返事をなるべくしないようにしている。

 しかし、今さっき起きたあの下の子らのやりとりは、寝言に寝言で返事をしていたような、まるで同じ夢を見ていて、二人とも何か得体の知れないものから逃げているかのようなやりとりに聞こえてしまって、薄ら気味が悪い。


 出だしなのでもう少しまともなことを書こうと意気込んでいたのだが、こんな話をプロローグとするのも悪くは無いだろう。


 さて、次話から私の中の記憶の綻びについて、深く語っていこうと思う。


 これはほとんどが、私の実体験である。
 ほとんどという曖昧なくくりにしたのは、読者のあなた方がどこまでを現実として考えてくれるのだろうと気になるからだ。

 信じてくれなくていい。
 しかし私は、この記憶の綻びたちが怖くて仕方ない。

 どんなホラー映画より、どんな怪談話より、自分という人間が怖くてたまらないのだ。

 だがヒトコワというジャンルともまた少し毛色が違うように思う。


 出来れば最後までお付き合い頂きたい。

 その最後というのが、果たしてこの読み物の完結なのか、それとも私の人生が完結する方が早いか。

 どちらなのかは私にもわからないが、出来れば前者であることを望む。

 何を隠そうリアルタイム進行型怪談なので、生存確認はTwitter等へどうぞ。

 ツイ廃なので、私はきっと一生あのSNSのことをTwitterと呼ぶだろう。

 毎日何かしらの行動を記録していたりしなかったりだが、こちらの更新より滞在時間は多めのはず。

 インプレ稼ぎは目的にしてないので安心して気味悪がってほしい。

 ここはひとつ、どうか最後までお付き合いをよろしく申し上げたい。
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