上 下
6 / 6

ep.6

しおりを挟む

正直に言うと、朝、桜子ちゃんに起こされたのは気まずかった。
友樹さんに昨晩言われた言葉を思い出してしまい。平常心ではいられなかった。だけれど、桜子ちゃんの朝の行動を見ていたら何だかそう思っていたのが馬鹿らしく、朝食を取ってる今は穏やかな気持ちだ。

「真文と知り合いってどういうこと?」


友樹さんの息子であるひいらぎくんがそういう言うと、友樹さんはこう諭す。

「元に止められててね。ほら、田舎のコミュニティーって狭いからすぐ広まってしまうし、穏やかに暮らすにはそれが一番だからね」


「まぁ、確かに真文が知り合いってだけで家族経営の花屋に沢山人が押し寄せてもさばききれないか」

それを聞いてふむふむと味噌汁をすする柊くんは、その隣にいる桜子ちゃんを見てニヤリと笑う。
それを見た桜子ちゃんは、頬を赤らめると柊くんに怒っている口調で言葉を発する。

「ひいちゃん。何か言いたいなら、目で訴えるんじゃなくてちゃんと言いなさいよ」

そういうと柊くんはクスクスと笑う。

「え? 言ってもいいの? 真文さん知ってますか? さっちゃんが……」

柊くんの言葉を聞いていた桜子ちゃんがちょっと待ってと柊くんの口を両手で塞ぐと、友樹さんが桜子を虐めるんじゃないと柊くんを諭してるようだ。
俺は何を言おうとしていたのか、気になりはしたが桜子ちゃんの必死な様子を見ていると聞き出すことは出来なかった。
というよりも、仲のいい2人を見ているとどうしようもなくモヤモヤとした気持ちになる。あだ名で呼び合っているし、羨ましくもある。

そんな中である事を思い出した。
思い出してはいけないとは思うがあの現場で聞いてしまった俺を呼んだのであろう。桜子ちゃんの言葉。


「…じろちゃん」

俺がそう囁くと桜子ちゃんはハッと俺の方を向いた。


「え…聞こえてたんですか?」

戸惑った様子で俺の方をみている桜子ちゃんに俺はニコリと笑いかける。


「聞こえたも何も、聞こえるに決まってる。じろちゃんって俺のあだ名だよね?」


何となくむず痒い。懐かしさも感じるその俺のあだ名を桜子ちゃんにリクエストする事にした。


「是非、じろちゃんって呼んで欲しいな」

桜子ちゃんは戸惑っている様で、中々言葉を発せないみたいだ。
見ていられなかったのか友樹さんが口を開いた。


「昔、そう呼んでたんだし。本人からお願いされてるんだから、勿体ぶらなくてもいいんじゃない?」

桜子ちゃんは眉を八の字にしながら、うぅっと声を唸らせる。そんな様子を見ていたら何だか申し訳なく思ってしまった。無理して呼ばなくても大丈夫だよと言おうと言葉を発しようとした時だった。



「じろちゃん」


俺をそう呼んだ桜子ちゃんの様は今にもタコになりそうな程に真っ赤だった。


「はい。ありがとう桜子ちゃん」

俺がそう言うと桜子ちゃんは元々小さな身体なのに、どんどん萎んでいく。


「さっちゃん。毎度そうなってたら、色々支障でるよ?」

柊くんが嘲笑うとバシンと柊くんの背中を叩く桜子ちゃん。仲がいいなぁっと勝手に羨ましく思っているそんな中で桜子ちゃんと柊くんの言葉が飛び交う。


「慣れてないだけだもん」

「昔、呼んでるなら慣れてるよね?」

「昔と今は違うじゃん」

「違わないでしょ?」

「違うわよ」

「だって今も好きじゃん」


柊くんのその言葉に、んっ?っと俺も含め友樹さんと桜子ちゃんが戸惑っていると柊くんは、何だこの大人達はと思ってもいるのか目を細めた。


「俺は子供なので大人の事は分からないんですけど、思い悩むならさっさと行動しろって思うんですよね。ま、子供なので本当に大人の事は分からないんですけど」

言ってやったっと満足しながら朝食を完食した柊くんが、食卓を後にした。
友樹さんがハッとなって、フォローに入る。

「ごめんね次朗くん!今、柊の言ったことは気にしないでいいから!!」


気にしないも何もなんの事だか俺自身分かっていないので大丈夫と言えば大丈夫なのだが、目の先にいる桜子ちゃんの様子が何だかおかしい。

「…桜子ちゃん大丈夫?」


桜子ちゃんは俺の声に気づいてハッと目を見開いた。


「すみません。二日酔いみたいでちょっと気分悪くて」

そう言う桜子ちゃんの昨日の飲みっぷりを思い出した。今になって思えば桜子ちゃんは振られたばかりで、傷心したばかりなのに昔馴染みにヅケヅケされてるんだよな。俺だったら絶対に嫌だなっと今更、反省をしてしまう。


「ごめん。かなり久しぶりに会ったなのに馴れ馴れしくしてしまって…」

そう謝っている俺に桜子ちゃんは違うと手を横に振った。


「謝らないでください。じろちゃんに会えて私は嬉しいです」


「本当に?」


桜子ちゃんは二日酔いで辛いはずなのに、ニコニコと笑顔でこう言った。


「はい。本当です!」





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ぽっちゃり娘、惚れ薬でイケメンに溺愛される

好きな言葉はタナボタ
恋愛
男性経験ゼロの乙女クルチア(19才)は怪しげな通販で惚れ薬「イケメン・コロリ」を入手し、飢え死にしかけの若者ミカリに食べさせる。 ミカリの飢え死に未遂の原因は、飼い猫の死がもたらした愛情不足。 イケメン・コロリの効果は本物で、ミカリはクルチアを溺愛。 それによってミカリの鬱は治るが、鬱を恐れる彼はクルチアのコロリを自ら求めるように。 コロリの溺愛効果を知りながら偽りの愛に身を委ねるミカリ。 そんなミカリに嬉々としてコロリを与え続けるクルチア。 利害が一致した2人は幸せに暮す。 だが、もしもコロリが製造中止になったら? ミカリはコロリ依存症を克服できるのか? クルチアはコロリなしでミカリに愛されるのか? 人工的な愛から天然モノの愛は生まれるのか?

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

処理中です...